「メディアリテラシー」を語るなら過去ログくらい読もうよ・・・

『「CD売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たち』は悪質な印象操作だ〜メディアリテラシーを考える〜

「ネタにマジレス、カッコイイ!!」ということで、まだ誰もやってないみたいだから真面目にツッコミを入れてみようと思います。

基本的には、コメント欄やブクマコメントで既に指摘されている通り、事実関係に異論はないものの、結局のところこのエントリ自体も「経営サイド」という恣意的な視点から書かれたものに過ぎず、

であれば、3月末まで報道発表をせず結果を見てメディアに対して音楽CDビジネスが回復基調にあることをアピールした方がメジャーレコード会社の共同利益を代弁する役割を果たす「日本レコード協会」の広報戦略としては正しい。
(中略)
それであればその時点で「音楽CD売り上げ減に歯止め傾向」というプロパガンダを行えばいいのである。

というように、件の「レコード協会発表」それ自体が広報戦略、「プロパガンダ」だと彼は認めてしまっているわけで、つまり、この時点で津田さんのエントリが「プロパガンダに対抗するプロパガンダ」として機能していることも認めていることになります。


で、彼が具体的に何を問題としているかというと、

もちろん、本人の主張を読者に伝えるということそれ自体は悪いことでも何でもない。また、ブログという「個人メディア」に書かれたものに対して恣意的な主張を排除することを求める方がおかしいという考え方もあるだろう。だが、少なくとも彼は文化庁が主催する私的録音録画委員会の専門委員であり、いわば「公人」だ。こうした偏った記事を世に出すことよりも、評論家・ジャーナリストとしての公正な視点が求められるのではないか。

と書かれているように、「仮にも省庁が運営する委員会の専門委員がblogを使ってプロパガンダをするとは何事か」と言っているわけです。さらに全体を要約すると、「利益を追求する企業がプロパガンダをするのはいいけれど、ジャーナリストや評論家がそれをやるのは良くない」というわけですね。

まあ、この辺も「本当に公平な立場で活動しているジャーナリストや評論家って誰?」とかいうツッコミを入れることもできますが、それ以上にお粗末だと思うのが、恐らく彼は津田さんの本を読んだこともなければ、過去のエントリも読んでいないだろうということが容易に想像できることです。もしかしたら、津田さんがどんな活動しているかさえ知らないんじゃないでしょうか。


津田さんが私的録音録画委員会の専門委員に選ばれた経緯はここ2年ほどの活動を辿れば容易に想像できるし、あまつさえ3/17のエントリで、

この春から文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会の委員として、私的録音録画見直しも含めた抜本的見直しの議論に参加することになりました。ITやデジタル音楽に詳しい消費者寄りの立場からの発言を求められてのことかと思います。私的録音問題の今後をどうやっていけばいいのかってことは僕自身の中でも完全に結論出ているわけではないので、いろいろ勉強して若輩ながら意見を言っていこうと思ってます。

と書いています。

つまり、端から文化庁側は津田さんに「評論家・ジャーナリストとしての公正な視点」なんて求めちゃいないし、津田さんもそれを認識した上で参加しているわけです。さらに言えば、少なくとも音楽配信等に関する津田さんの活動は、既に「ジャーナリズム」から「ロビーイング」に移りつつあると言えます。このことが理解できていれば、「彼がこのエントリーで取った恣意的なスタンスを許すことができないのである。」なんて的外れなこと書きませんよね。仮にネタだとしても。


受け取る側はともかくとして、情報の発信源がどのような人物で、どのようなスタンスで、どのような意図をもって発信しているかを考えるのが「メディアリテラシー」であるはずでしょう。その確認を怠った時点で「メディアリテラシーが足らない」と指摘せざるを得ません。

つまり、偉そうに「メディアリテラシー」を語るなら、せめて過去ログくらい読もうよ、ということですね。

本当にネタだったのなら、僕のメディアリテラシーが足らなかったということで笑ってやって下さいw

「Google」の時代に「レコード会社」や「JASRAC」は必要なのか。

上で件のエントリに対するツッコミを入れてみたんですが、どうも上げ足取りに見えてしまうのでもう少し追記。

id:kowagariさんから、確かにメディアリテラシーについて考えることができた〜おれはおまえのパパじゃない〜というTBを頂きましたが、特にラストの部分、

別にレコード会社がこの世からなくなろうが、それに代わる何かが現れて、クリエイターとユーザーに今以上の利益がもたらされるなら、僕ら(僕らの時代らしいので例によって僕らっていいます)ユーザーには何の問題もない。レコード会社が本当に生き残りたいなら、ユーザーとクリエイターの利益を考えてバランスを取るしかないのに、そういう気配がほとんど見えない。だったらもういっそ潰れてくださいと。

は完全に同意見です。

実は、津田さんが主催する「デジタル音楽勉強会」に参加してきたんですが、そこでも同様の話がありました。


そもそもid:keithmentholさんは、レコード会社の視点から「音楽配信」に関して書かれているけれども、そこでは「市場(消費者)」に対する視点と、「外圧(海外及び業界外からの圧力)」が考慮されていません。

まず、ビジネスとして音楽業界を捉えた場合、当然メーカー側の視点だけでなく、消費者の視点も考慮しない限りは市場は成立し得ません。CCCD及び「輸入CD規制問題」などを例に出すまでもなく、レコード会社がユーザーをどのように捉え、どのように扱ってきたかは明確でしょう。それらの事実を踏まえて尚、レコード会社のビジネス論に同意するユーザーを確保し、現在の市場を維持できると考えているのでしょうか。僕には大きな疑問があります。

さらに、ナップスターが契機となり、iTMSでそれが爆発したように、技術的進歩が外圧として機能しビジネスの根幹そのものを変えてしまうことも考慮されているように見えません。例えば、ネット上の音声・音楽データを全て検索・管理できるシステムをGoogleが開発した場合のリスクなどは考えられていないように見えます。

つまり、「ビジネス」として考えた場合であっても、パッケージ販売に依存する現在のレコード会社の選択が「正しい」とは到底思えないのです。


ユーザーとしては、別にレコード会社やJASRACがなくなろうと、アーティストとユーザーがダイレクトに結びつくチャンネルが確保できればそれで構わないし、技術的には既に不可能ではないでしょう。

例えば大規模レコード店の代わりにAMAZONiTMSによって音源の流通がなされ、TVなどメディアへの過度な露出をする代わりにWEBでの効率的なプロモーションが行われ、大きなレコード会社の代わりにアーティストの創造性を守る小さなレーベルが無数に存在し、SNSSBMなどでそれらを共有する。そのような状況になる可能性だってあるし、僕らはそれでも困らない。アーティストも困らない。困るのは一体誰でしょうか?事実、世界中にはとても小さいながらいい音楽を作り続けているアーティストやレーベルがたくさんありますよ。

仮にも「某シンクタンクコンテンツ系の研究員」をなさっているのであれば、その辺りの状況も考慮して発言すべきで、「ユーザーへの利益誘導を目的として」既に活動している津田さんに対して、「メディアリテラシー」というメタ的な視点から「恣意的である」ということを理由に批判することに一体何の価値が見出せるのでしょう。ただの自己満足ではないんですか?

もし津田さんの見解に異論があるならば、彼の主張に明確な対立項を持って対峙し、「こうすれば業界の為にもユーザーの為にもアーティストの為にもなる」という対案を出すべきだと思いますが。

どうでしょう、5/17に第2回「デジタル音楽勉強会」が開催されますから、そちらに異論を携えて参加されてみては如何でしょうか。きっと面白い議論になると思いますよ。

現状で最悪の結末は、レコード業界が潰れることではなく、既得権益を守る為にレコード会社がユーザーの意向を無視し続け、市場全体が衰退し、クリエイターやコンテンツそのものが減少、文化的に死に向かうことしょう。大げさかもしれませんが、音楽を愛する者として、そのような状況にはなってもらいたくないですね。