「市場原理主義」あるいは「市場万能論」を唱える人へのちょっとした疑問

本来支払うべき残業代を払わず、労働基準監督署から是正指導を受けた企業数が、06年度に1679社に上り、01年度の調査開始以降、最多となったことが厚生労働省のまとめで分かった。是正額は227億1485万円に上り、約18万人の労働者に改めて支払われた。

(中略)

1企業で最も不払い額が多かったのは12億3100万円(金融・広告業)、次いで8億7287万円(同)、4億6960万円(製造業)となった。同省は企業名を公表していない。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20071010k0000m020181000c.html

この件に関して、普段「市場原理主義」や「市場万能論」をベースに言説を展開している人に聞きたいんだけど、(故意か過失かにかかわらず)明示されていたルールを侵して本来支払われるべき経費(給与)を支払わなかった企業の名前が開示されないのは「市場の透明性」を阻害することにはならないのかな?

コンプライアンス」という視点と併せて、「従業員をどのように扱っているか」という視点もその企業価値を判断する上で非常に重要な評価軸になると思うんだけど。

もし「過失」だったとしたら企業にとって根幹となる「管理部門」の脆弱性を示すことになるだろうし、もし「故意」だったとしたら「コンプライアンス」という点で大きなマイナスなのはもちろん、社員のモチベーション低下による商品/サービスの品質悪化やコアとなる人材の流出による将来の成長鈍化、また訴訟というリスクなど様々な不安要素を抱えていることになるんじゃないだろうか。

企業規模にもよるけど、数十万、数百万ならいざ知らず、数億ってレベルはさすがに故意/過失問わず企業価値を大きく下げる要素になると思う。(数年間分を遡って支払ってることもあるのだろうけど)さすがに12億なんて金額はおかしくないか?ちょっとした粉飾レベルだと思うんだけどなぁ。

企業価値」を適格に判断するためにも、あるいは「市場による淘汰/矯正」といった機能を働かすためにも、「市場」を重視する人こそこういった情報の開示を積極的に要求していく必要があるんじゃないかと思うんだが、どうやらそういう声はあまり大きくないらしい。毎度毎度判を押したように「労働関係者(組合関係者)」が「労働者保護」という視点から批判しているだけ。

市場原理とコンプライアンス尊重、あるいは社員の幸福が矛盾しないことを語る経営者の方々や、市場原理の導入によって僕らの生活が豊かになると主張する学者先生達こそ、必要な情報を隠匿し市場による淘汰を阻害する厚生労働省の対応を批判するべきだと思うんだけどね。

この辺が徹底されてないから、彼らの語る「市場原理」とやらが胡散臭く聞こえるんだよね。そんなんじゃ、どれだけ時間をかけても「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入に理解なんて得られるはずがないと思うんだけど。

あ、今は「家族だんらん法」だったっけか。原理原則を無視して表層だけで物事を押し進めようとする馬鹿の典型例だね、まったく。