“警察官が相手に銃を向けてもいい条件”を調べてみたよ。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080305/crm0803052204037-n1.htm
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この事件は詳細情報があんまし出回ってないから安易な判断をするべきではないと思うんだけど、ただブクマコメなんかを見てると「警察官」と「銃」の関係性に関する認識がはっきり別れてて面白かった。

ブクマでも書いたんだけど、僕は警官に銃の使用が許されているのは「緊急避難」のためであって、「対象者」(罪状が出てない段階では「容疑者」でもないし「犯人」でもないから)を威圧・抑制させるためのものじゃないんだと思ってた。

でも、もちろん「そう思わない人」もいる。「対象者」を威圧・鎮圧させるために、積極的に「銃」の使用が許されている(あるいは許されるべきだ)と思ってる人は結構いるようだ。

今回の件が“銃を撃った”だったらもっとシンプルだったと思うんだけど、“銃を向けた”だけだから余計にややこしく感じる。要は、対象者を威圧して言うことを聞かせるために“銃を向ける”という行為が許されるかどうか、ってところがポイントなんだと思う。

でも、そう言いながら、実は僕もその条件をちゃんと知らなかったんだよね。

んで、さすがにその基準は個人の主観で決定されてるわけじゃないだろうと思って調べてみたら、『警察官職務執行法』と『警察官等けん銃使用及び取扱い規範』にちゃんと“相手に銃を向けてもいい条件”の記載があった。

第二章 使用等

(あらかじめけん銃を取り出しておくことができる場合)
第四条  警察官は、職務の執行に当たりけん銃の使用が予想される場合においては、あらかじめけん銃を取り出しておくことができる。
2  前項の規定によりけん銃を取り出しておく場合には、けん銃を奪取されることのないよう細心の注意を払うとともに、相手を殊更に刺激しないよう配慮しなければならない。

(けん銃を構えることができる場合)
第五条  警察官は、法第七条本文に規定する場合においては、相手に向けてけん銃を構えることができる。
2  前項の規定によりけん銃を構える場合には、相手の人数、凶器の有無及び種類、犯罪の態様その他の事情に応じ、適切な構え方をするものとする。

警察官等けん銃使用及び取扱い規範

で、上の『法第七条本文に規定する場合』ってのがこれね。

(武器の使用)
第七条  警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十六条(正当防衛)若しくは同法第三十七条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一  死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二  逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

警察官職務執行法

う〜ん、これだけじゃ分かりづらいよね。


どうやらそう思ってたのは僕だけじゃないらしく、2001年12月に「警察官等けん銃使用及び取扱い規範」が改正(緩和)されたのと併せて、「取り出し」「構え」「威嚇射撃」「相手に向けて撃つ」というそれぞれの段階で「拳銃使用」の具体例をまとめた『警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(例規)』という文章が全国の警察本部に通達されてる。


『警察官等けん銃使用及び取扱い規範の解釈及び運用について(例規)PDF』


PDFしかなかったんだけど、一応「構え」のところを抜粋。

3 第5条(けん銃を構えることができる場合)関係
(1) 第1項関係
「法第7条本文に規定する場合」とは、「犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合」である。
(2) 第2項関係
けん銃の構え方には腰に構える、体の前に構える、相手に突きつける等があり、一般的に相手に与える畏怖の程度は腰に構える場合が最も弱く、相手に突きつける場合が最も強いとされているが、けん銃を構えるに当たっては、「相手の人数、凶器の有無及び種類、犯罪の態様その他の事情」とけん銃の構えによって与える畏怖の程度を勘案した上で、適切な構え方をしなければならない。
(3) 具体例
けん銃を構えることができる具体例は、別表2のとおりである。


んで「別表2」で今回の事案に関係しそうな部分だけ抜粋すると

けん銃を構えることができる具体例

■現場臨場
(1) 刃物を携帯した者が街中を徘徊しているとの通報を受け現場臨場したところ、その者が刃物を警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(2) 刃物を使用した傷害事件現場に臨場したところ、犯人が刃物を警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(3) 強盗の通報を受け現場臨場したところ、犯人が隠し持っていたけん銃様の物を取り出そうとした場合
(4) けん銃の発砲の通報を受け現場に臨場したところ、犯人らしき者が懐に手を入れ、何かを取り出そうとした場合
(5) 暴走族等の非行集団がい集している現場において、数人の少年が鉄パイプ等を警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(6) 極左暴力集団による、テロ、ゲリラ、内ゲバ事件の現場において、犯人が鉄パイプ又は刃物等を警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(7) 集団密航事案の現場において、密航ブローカー等が刃物を警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(8) 公道上で刃物を振り回している者が、通行人に対して襲いかかる気勢を示している場合
(9) 持凶器強盗事件現場に臨場したところ、犯人が近くにいる通行人を人質に取ろうとした場合

職務質問
(1) 警ら中、不審者を発見し、職務質問するために近づこうとしたところ、相手が隠し持っていた刃物を取り出して警察官に向けて身構え、抵抗しようとした場合
(2) 不審車両を発見し、職務質問しようとしたところ、パトカーに車両を衝突させて抵抗しようとする場合

こんな感じ。

一応今回は「拳銃を向けられた」と通報されてるから「構え」で扱ったけど、「拳銃を抜いた」だけなら「取り出し」になる。その条件もPDFに載ってるから併せてチェックしてみるといいと思う。


まあ結局は今回の事件の詳細が分からないので判断しようがないんだけど、上の条件を見る限り、単に“銃を向ける”だけでも明確な基準をクリアしていないと警察官の正当な行為とは見なされない、ってことはわかる。

んでもって、例の高校生が『“銃刀法違反”や“凶器準備集合罪”で逮捕された』という話が出ていないことから考えると、今回の件は上の条件には適合しないってことなんだろうね。だから本人も『もし、あの状況に戻れるなら、相手が折れるまでとことん説得します。』って反省してるんだろうし。

いくらその高校生が迷惑だからといっても、「法を護る」立場にいる警察官が法を侵してたんじゃ話にならない。「DQN高校生憎し」って感情からそれを追認しようとする人たちも、もう一回冷静になって考えたほうがいいんじゃないかな。

日本はアメリカじゃない。『合衆国憲法修正第二条』には『規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない』という有名な条文がある。これはつまり、外敵の侵略に対してだけでなく、横暴な権力に対しても民衆が「武器(銃)を持って抵抗する権利」を保障するものなんだよね。

で、上の条文を今回の件に(すげえ安易に)短絡させると、「定められた手順を踏まずに銃を向けた(生命を脅かした)警察官を撃ち殺す権利がこの高校生にはある」ってことになる。笑っちゃうけどそういうことなんだよ。

それにいくら銃社会だといっても、アメリカの警察官だって自由に銃を使えるわけじゃない。ちゃんと銃使用のガイドラインは規定されてるし、「間違った使い方」をすれば相応のペナルティを受ける。彼らが銃を頻繁に使うのは、何よりも銃社会で「自己防衛」するために止むを得ないことなんだよ。

それを、一般人が銃なんて持つことができない日本の比較対象にする事自体、「アメリカの警察官」と「日本の警察官」両方を馬鹿にする行為だと思うけどね。

個人的にはまともな武器も持ってない高校生を抑制すんのに、わざわざ「拳銃」まで持ち出さなきゃならないってのはあまりに情けない話だと思うけど。そんなに酷いんだったら、銃なんて持ち出さずに普通に逮捕すりゃいいだけの話じゃないのかな。デモでも良くやってるじゃん?触ってもないのに「公務執行妨害」とか、ね。