3年前にリリースされた曲がダウンロードだけでUKチャートNO.1を獲得した理由。
先週(6/8付け)と今週(6/15付け)のUKシングルチャートNO.1は、Mint Royaleの「Singin' In The Rain」という曲。
- アーティスト: Mint Royale
- 出版社/メーカー: Sony Bmg Europe
- 発売日: 2006/01/09
- メディア: CD
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Mint Royaleはマンチェスター出身のエレクトロポップデュオで、Fatboy Slimなんかと同じく“Big Beat”ブームの一翼を担ったアーティスト。
「Singin' In The Rain」はジーンケリーの"雨に歌えば"をエレクトロ仕立てに仕上げた曲なんですが、実はこれ、約3年前の2005年8月にリリースされた曲なんですね。フォルクスワーゲン・ゴルフのCM(ジーンケリーがブレイクダンスをするやつ)で使用されてちょっと話題になってたので、覚えてる人もいるかもしれません。
Volkswagen Golf TV Advert with Gene Kelly
これがCMで、
Mint Royale Ft. Gene Kelly - Singing in the Rain (Remix)
こっちがオリジナルのPV。リリース当時もそれなりに話題になった(チャートで最高20位)ように記憶しています。
過去にリリースされた楽曲が最新チャートに上がることは時々ありますが、その理由はベストアルバムの発売に合わせたプロモーションの結果だったり、あるいはリマスタリングや入手困難だった初期レコードの再発によるものが大半ですし、ましてやそれがチャート1位になることなんてめったにありません。
Mint Royaleは2007年頭にベストアルバムを出して以降ほとんど音沙汰がなく、再発するにしてはスパンが短すぎます。そして何より、今までチャートの1位を獲得したことがないアーティスト(確か最高位でも二ケタ代じゃないかな)の過去の楽曲が1位になるなんておかしいと思ったのでちょっと調べてみました。
まず、最初にネタばらししてしまうと『TVの人気番組で使用+ITMS』というコンボがきれいに決まっただけ、という特に面白みのない結果だったんですね。
ただ、そのコンボがあまりに鮮やかだったというか、前例がないくらいの破壊力だったので正直驚きました。
この突然のブレイクのきっかけとなったのは、UKの人気オーディション番組「Britain's Got Talent」。“ブサイクオペラ歌手”のポール・ポッツを発掘した番組といえば分かる人もいるんじゃないでしょうか。
で、この番組の2008年度版ファイナルが5月末に行われ、そこで見事チャンピオンを勝ち取った“14歳の天才ブレイクダンサー”ジョージ・サンプソンのパフォーマンス中に使われていた楽曲が「Singin' In The Rain」だった、というわけです。
George Sampson - Final - Britain's Got Talent 2008
何でもこのファイナルの模様は全英で1000万人以上が視聴していたとのこと。
肝心のチャートアクションなんですが、ファイナルの放送が5/31、その直後にITMSでのダウンロードが急増し、翌日にはiTunes UKのランキングで1位に。更に6/1付けのUKチャートでは圏外から28位まで上昇。その後もDL数は伸び続け、6/8付けのUKチャートではRihanna「Take a Bow」をトップから引きずり降ろし、ついにDL販売のみでチャートNO.1を達成。その勢いが衰えないまま、6/15付けのチャートでも1位に留まっているという状況です(ちなみにiTunes UKのランキングではCOLDPLAYの「Viva La Vida」にトップの座を譲っています)。
DL数までは調べてませんが、如何にTVの影響力が絶大だとはいえ、「ネット以前」ではあり得ないチャートアクションです。CDがメインの時代であれば、当然店舗にそれほど在庫は用意されていないでしょうし、レコード会社から追加プレス分が届くまで時間がかかります。この手のブームは“熱しやすく冷めやすい”のが常ですから、手に入らなければそこで諦めてしまうエンドユーザーも多いでしょう。
しかし、今はTVで気になる曲があればすぐにネットで検索してワンクリックで購入できます。店舗に行く必要すらありませんから、時間やその他の物理的な制約によって購買意欲が削がれることはほとんどありません。
TVでの使用をきっかけにしてセールスが伸びることは珍しくありませんが、既に“旬”を過ぎてしまった中堅アーティストの3年前の楽曲が、TV放送からたった一週間で圏外からトップまで上り詰めたなんて前代見聞じゃないですかね。しかも、事前のプロモーションも全くない状態だったとのこと。
こうして考えると、上の事例は『TV+ネット』のコンボがきれいにはまった時のとてつもない破壊力を示す、いいサンプルなんじゃないかと思います。これ、UKチャートを熱心に追いかけてる人くらいしか話題にしてないですけど、「ネット時代の音楽の売れ方」を考える上でもエポックメイキングな出来事なんじゃないですか?
[追記]
書き忘れてたんですが、『TV+ネット』というのは単に『TVで見てITMSで購入』というシンプルなものだけではなくて、ブログやSNSで彼の話題を目にした人がYoutubeなどでパフォーマンスを確認しまた楽曲を知る、という導線が引かれた影響も大きいと思います。
ブログやSNSでの言及数は調べてないですけど(英語読めないので)、Youtubeに上がってる彼の動画は、ファイナルのパフォーマンスに関連するものだけで10本以上。合計の再生数は2週間で300万を越えています(単体で最高の再生数は約100万)。
つまり、TVが起爆剤となり、ブログやSNS、Youtubeがそれを加速・拡大させ、ITMSがその受け皿となった、というのが正確な構図ではないかと思います。
この構図もまあ、以前から想定されていたことなので別段珍しくもないわけですが、やはりここまで鮮やかなのを見ると色々と考えちゃいますね。
ちなみに、「DLのみでUKチャートNO.1」というのはこれで5例目みたいです。