極右政党にさらっと中指を突き立てるLily Allen

http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080303/1204546873
http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080304/1204658223
http://d.hatena.ne.jp/terracao/20080701/1214872758

この手のネタは確かに面白いんだけど、同時に『ここまで牽強付会しないと音楽と政治性(社会性)を絡めて語れないのかなぁ・・・』という虚しさも感じるわけですね。ひとりの音楽好きとして。

なのでちょっとだけ元気が出る話を。


もうすぐ2ndアルバムが完成する予定のみんな大好きLily Allen嬢なんですが、先週そのアルバム収録予定曲『Guess who Batman』が彼女のMyspaceにアップされて話題になってます。

Lily Allen - Guess who Batman

さらっと聴く限りでは『Alfie』の延長にある小奇麗でポップな小作品、といった感じなんですが、実はこれ、英国国民党(BNP)という極右政党をネタにしてる歌なんですね。

この「Guess Who Batman?」は彼女らしい軽快なポップ・チューンに仕上がっているが、歌詞はそれとは裏腹に“あなたは同性愛者を認めない、あなたは人種差別主義者”“私はあなたを憎んでいる”などと過激な言い回しが並び、さらにサビでは“ファック・ユー”と繰り返している。

曲のアップとともに更新されたブログ(6月21日付)で彼女は「この曲は別に誰かを攻撃するような曲じゃない。もともとはBNP(英国国民党)について書いたものだけど、こういう問題があちこちで起こっていることを感じたのよ。私たちはまだ若い。私たちは将来のためにクールになることができる。“憎しみ”を憎んで欲しいの」などとしており、いつになく真摯な文面で綴っている。NMEなど英メディアでもこの曲が話題になっており、物議を醸しそうだ。

http://music.yahoo.co.jp/music_news/d/20080624-00000005-mysp-musi


リリックはこんな感じ。

Look inside
Look inside your tiny mind
Then look a bit harder
Cos we're so uninspired
So sick and tired
Of all the hatred you harbor


So you say it's not okay to be gay
Well, I think you're just evil
You're just some racist
Who can't tie my laces
Your point of view is medieval


Fuck you
Fuck you very, very much
Cos we hate what you do
And we hate your whole crew
So, please don't stay in touch


[適当な和訳、というか僕の意訳]


ちゃんと覗いてみなさい。
あんた達のちっぽけな頭の中を。
で、ちょっとは不自由さを感じなさいよ。
私達はとっても平凡なんだから。
もういい加減、あんた達が煽る憎悪には
うんざりしてるの。


あんた達は「同性愛は好ましくない」とか言うけれど、
そうね、私はあんた達の方こそまさに“邪悪”だって思うわ。
あんた達はただの差別主義者。
誰も属性なんかに縛りつけることはできないわ。
あんた達の考えなんて時代遅れもいいとこよ。


“Fuck you
 Fuck you very, very much”よ。
だって、私はあんた達がすることも、
あんた達のお仲間もみんなみんな“だいっ嫌い”なんだから。
ねえ、お願いだからもう関わらないでくれるかな?

ちなみに、BNPはテロに関連してイスラム教徒排斥運動を展開したり、ホロコーストを否定する学説を支持するといった典型的な極右政党で、フランスやドイツなどと同じく特に白人低所得者層からの支持を集めその勢力を拡大させています。党首はインタビューで『模範とするのは排他的な日本の移民政策』とか言ってます(参照)。

本人は確かに“this song is not a direct attack at anyone”とブログで書いてますが、まあ歌詞を見ればその矛先は明らかなわけで。Lily AllenはBeth Dittoなんかと違って特に政治性を強く打ち出すタイプのアーティストではないですが、だからといって別にそれを放棄しているわけでもないんです。

国籍で分けることの乱暴さを承知で言ってしまえば、邦楽と洋楽の最も大きな違いはこの部分ではないかと思います。“Poppnes”と“Politics”との距離感、というか。

本来、この二つの要素は対立項じゃないのですが、邦楽アーティストで双方を上手く料理できている人ってそんなにいない気がします。特にチャートに上がるようなアーティストでは名前が浮かびません。“Politics”だけが見事に排除されている、というか“Non-politics”という態度以外存在しない感じ。

まあ、これはあくまで僕の印象値の話でしかないわけですが、フジロックですら「NGOなんかの政治的アピールは邪魔だ!俺達は“純粋に”音楽を楽しみに来てるんだ!」なんて言い出す人がいるのを見るとやっぱり色々と考えちゃいますね。

別にProtest Songだからといって畏まる必要はないですし、みんながみんなRage Against the MachineみたいにハードにしたりU2みたいに大げさにする必要はないわけで。それぞれの“Poppnes”と“Politics”の関係性を楽しむのも音楽の醍醐味のひとつだと思うんですけどねぇ。

その文脈からいくと、今回のLily Allenの新曲は彼女のアーティスト性に恥じない、軽やかなProtest Songとして評価できると思います。鼻歌を歌いながら中指を突き立ててる感じが素敵です。彼女に関しては、様々なジャンルの音楽要素をまとめる能力や日常性のなかの非日常性を描写する能力は凄いな、と思っていたんですが、こうやって政治性もきれいに料理しているのを見ると改めてアーティストとしての懐の深さを感じます。


でもひとつだけ不満を。


金髪辞めて黒髪に戻して下さい。あっちのが断然好みだったので・・・。


使用前

使用後