“「風評被害なんて存在しない」という風評”について

「大涌谷周辺」での情報発信要望 箱根町、風評を懸念:朝日新聞デジタル

この件、個人的には「あんまり風評風評と騒ぎすぎるのも逆効果だし、正確な情報を発信し続けて事態が収まるのを待つしかないよなぁ」と思っていますが、ただ行政が危機感を抱いている理由もわかります。

箱根は私の地元なので、火山活動が活発化した直後からネット上で箱根に関してどのような噂が流されているかを確認しています。私が確認した限りでは、報道直後から「箱根山が大爆発する」「箱根山からサルの群れが一斉に逃げ出した」「芦ノ湖の水が変色した」等のデマが散見され、現在も根拠不明の情報やそれに基づいた危機感を煽る書き込み・tweetがあとを絶ちません。

また、旅館やホテルに勤める複数の知人からは「箱根は温泉が出なくなっている」「大涌谷以外の場所でも噴火の兆しがある」「芦ノ湖周辺も立入禁止になっている」「遊覧船も止まっている」等の誤解に基づく問い合わせやキャンセルが少なくないと聞いています。箱根町が行った要請はそうした現状を受けてものでしょう。

そしてこういうことを平気で言ってしまう人もいます。

風評もなにも現実に爆発してるんですがそれは……あと温泉枯渇してるんでそれ目当ての人は行かなくて当たり前なのでは……

id:iasnaのブックマークコメント
※現在は書き換えられています。

少し調べればわかりますが箱根では“温泉枯渇”などしてはいません。ただ「大涌谷から温泉を引くための設備が破損し、一部の施設への供給ができなくなった」という事態が起こっただけです。

神奈川県は三十日、同県箱根町の一部施設から温泉の湯が止まったとの連絡を受けたことを明らかにした。同町の強羅、仙石原地区の旅館など約四百軒に温泉の湯を届ける「箱根温泉供給」によると、うち約七十軒で温泉の湯が二十九日からほとんど出なくなったという。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015070102000132.html

箱根には各所に温泉が湧き出している地域があり、江戸時代に『箱根七(八)湯』と呼ばれていたものが少しずつ拡大、今では『箱根二十湯』といわれるまでになりました。源泉の数は確認されているものだけでも350ヶ所以上にのぼります。

大涌谷温泉はそのうちのひとつに過ぎず、それ以外の温泉に関しては噴火の影響は出ていません。さらに、温泉が出なくなったのは大涌谷から供給を受けている約400軒の施設の一部に過ぎません(今後増える可能性はありますが)

そのため、温泉の供給が受けられなくなった旅館等に対しては影響を受けていない施設が温泉設備の提供を行う方向で対策が進められています。

このような状況を指して“温泉枯渇”というのは明らかな事実の誇張・歪曲であり風説・風評の類です。id:iasnaさんは風評被害を危惧する行政の対応に疑問を挟んでおきながら、自分自身が根拠の無い風評を流してしまっているのです。

しかし、大半の人がそうであるように、id:iasnaさんも「自分が風評を流している」という自覚がありません。そのため「それは事実誤認だ」という指摘に対してこのような逆ギレをしてしまうわけです。

枯渇していない温泉を「枯渇している」というのは枝葉末節の話で、その訂正を求める人は病気なんだそうです。

“風評”のひとつひとつは些細なものに見えるかもしれません。けれどもそれが寄り集まることで、実際に起こっている事象から大きく離反した情報が“事実”とすり替わり人の判断を狂わせることになります。それが“風評被害”というものの実態です。

冒頭の記事のブックマークコメントでは“風評被害”が存在しないかのような口調で箱根町や政府の姿勢を批判する人が複数いましたが、実際には上で挙げたとおり事実に基づかない風説・風評が撒かれその影響が出ています。そうした人たちは、恐らくどのような風説・風評が流布されているか、また旅館などにどのような問い合わせが寄せられているかについて自身で確認したりはしていないのでしょう。

そもそも、過去の事例などに照らせば、これだけ大きな話題になっている災害に関して「風評被害が起っていない」と考えるほうが不自然でしょう。現在起こっていることを客観的に見れば「風評被害なんて存在しない」という主張それ自体が風評なのです。

“「風評被害なんて存在しない」という風評”は、実際に起こっている被害から目を背向けさせるだけでなく、既に拡散されている風評を“事実”として追認し、また別の風評を呼びこむきっかけともなります。id:iasnaさんの言説・態度がその一例です。その結果さらに被害が広がっていくわけです。

どれだけ努力しても全ての風評を払拭することはできません。恐らく現在の火山活動が沈静化したあとも新たな風評は流され続けるでしょう。であればせめて、実際に風評被害が発生していることが広く認知され、この不毛な連鎖に加わろうとする人がひとりでも減ることを願うばかりです。