「デトロイト・メタル・シティ」理想のサウンドトラック〜リアルで「DMC」を体現していたバンド〜

といっても、作中に出てくるデスメタルバンドではなく、漫画そのもののことなんだけど。

http://d.hatena.ne.jp/syabuichi/20061214/p1

デトロイト・メタル・シティ」単行本3巻には実在のメタルバンドのイメージCDが付いてくるらしい。

ファッキンガム宮殿とか同人CDの時にも思ったのだけれど、作中のバンドを再現するっていうのには実はあんまし興味が沸かない。

まあ、プロモーションとしてはまっとうだと思うのだけれど、DMCについてくるイメージCDがまんま「メタル」では、それこそ漫画を構成する世界観の矮小化なんじゃないかと(半ば本気で)考えた。

どうせなら、メタルから渋谷・代官山系オシャレポップ、ガールズ・パンク・バンドにギャングスタ系ラッパーまで揃えて、それぞれがそれぞれをDISり合いつつ、最後はみんなで「We Are The World」を歌って大団円、って企画にして欲しかった。ま、オマケCDにそこまで求めるなと言われればそうなのだけれど。

さてそんな前提のもとに「DMC」を読むと、この漫画はデスメタルもオシャレポップも平等にバカにしている。2巻ではパンクだのラップだのも平等にバカにしている。バカにすること自体はギャグ漫画だから当然として、この漫画の倫理が信頼できるのはこの「平等」という部分だ。ジャンル間摩擦を描きつつも、どれにも肩入れすることなく公平に突き放して根岸くんの右往左往を笑う。この公平性に信頼があるから、時にギャグがすべっても構わず読めてしまうのである。普通はギャグ漫画でギャグがすべったら致命的なのだが、「DMC」には少々のギャグのすべりには左右されない見識があって、それが漫画の基礎体力になっている。これはやはり稀有な漫画だと思うのである。

http://d.hatena.ne.jp/pencroft/20061027#p1

個人的に僕がDMCに惹かれる理由はここにあって、これがDMCという作品をより普遍的にしているのだと思う。

でもって、現実の音楽業界(いや、芸能界かな)の悪い癖、例えばアーティストプロフィールの捏造だったり、ステージでの過剰なプロデュースであったり、マッチポンプとしての抗争だったりといった「子供だまし」の内情を加味すると、それに踊らされる人々=自分自身の愚かさも含めてより深い笑いが期待できる。

例えば「本格派ギャングスタラッパー」として登場する「鬼刃」なんてどこぞのラッパーのことかと思うわけだし、元々「ギャングスタ」というスタイルの原型となった「N.W.A」だって、ギャングどころか実はボンボンで、東海岸に比べてスタイルで劣っていた西海岸で何とか逆転する為のイメージ作りの一環だったって話もある(もちろん、ヒップホップの成り立ちにギャングが深く関わっているのは事実だが)。

別にDMCみたいな話は探せばその辺に転がってるんじゃないかと思うんだけれど、それを「全方位から」笑って楽しめる作品っていうのはあんましなかったんじゃないだろうか。そういう意味で言うと、やっぱりDMCを象徴する音楽がメタルだけっていう現状には不満が残る。そもそも、僕はメタルが嫌いだ。

で、「DMCサウンドトラック」に最も相応しいレコードは何かと考えた。僕が知る限り、最も「DMC的」なレコードはこれ。


Hooray for Boobies

Hooray for Boobies


アメリカのミクスチャーバンド『The Bloodhound Gang 』が2000年に出したアルバム。このバンドのディスコグラフィなんかはこちら

元々Limp BizkitとかKORNとかのヘヴィロック周辺から登場したバンド。ヴォーカル兼ソングライターは元いじめられっ子のオタク。

この2作目でメタルからギャングスタ風ラップ、パワーポップニューウェーブ風エレポップまでをとっても悪い意味で「インスパイア」しつつ、世界中のありとあらゆる事象を「ネタ」にしている。エミネムとかのDISりのベースはこのバンドだと思う。

歌詞に固有名詞やジャーゴンが多すぎて、一曲の中で一体なにを馬鹿にしているのかすら分からない曲も多い。

多分、彼らの最大のヒットはこの曲。UKチャートで確か3位くらいまでは行ったはず。歌詞を要約すると「やらないか。」

また、前述の「鬼刃」とのDIS対決において、クラウザーさんが「オ○ンコー!!」と叫んで勝利したのは有名なエピソードだが、このアルバムには一曲丸ごと「オ○ンコ」について歌ったその名も「アソコの歌(邦題)」という曲があり、サビの部分ではオアシスかU2かというくらい高らかに「オ○ンコォォォォォ!!オ○ンコォォォォォ!!」と(半泣きで)連呼している。

ちなみに、マイケル・ムーアの「華氏911」で、米軍兵士が「戦闘の時に聞くお気に入りの曲」として紹介しているのも、彼らの「Burn Motherfucker Burn」改め「Fire Water Burn」という曲。きちんと映画のサントラにも収録されている。

漫画としての「DMC」好きな人は是非ご一聴を。

デトロイト・メタル・シティ」が(実写で)映画化された日には是非彼らにサントラをつくって頂きたい。DMCをメタル野郎に独占させるな!!