シラク三原則は「2人出産が仕事より価値」とは真逆の話ですよね、やまもとさん。

「2人出産が仕事より価値」発言がなぜ炎上しているのか分からない|やまもといちろうコラム(1ページ目) - デイリーニュースオンライン

この話に関連して、やまもといちろう氏がtwitterでちょっと気になることを言っていました。

シラク三原則」とは、その名の通りシラク大統領時代のフランスでとられた少子化対策の基本方針で、日本でも度々紹介されています。特にライフネット生命の出口さんが頻繁に言及していますね。

少子化は文化を滅ぼす 仏の「シラク3原則」に学べ ライフネット生命 出口治明会長インタビュー WEDGE Infinity(ウェッジ)
子どもは社会の宝 少子化対策、意識改革がカギ :日本経済新聞

で、やまもと氏の言うとおり「シラク三原則」と寺井校長のスピーチは「全く同じ話」なのでしょうか。出口さんの説明と比較してみましょう。

シラク3原則という極めてシンプルな原則があります。第1原則は、男性は赤ちゃんを産むことができないので、赤ちゃんを産むか産まないかは女性が100パーセント自由に決めればいいという原則です。

でも、赤ちゃんを産むということはコストがかかるわけですから、その女性に経済力がなければ赤ちゃんを産めませんよね。

だから、女性は産みたいときにいつでも産んでもいいと。でも、その産みたいときに困らないように極力税金でそこの格差を縮めると。子どもは社会の宝である、というのが第1原則です。

第2原則は、そんなことを言っても例えば18歳で産むと、仕事をしないと生きていけないので、地方自治体の役割として、待機児童ゼロというのがマストですよと。いつ赤ちゃんを産んでも働けますよ、という条件を作ることが第2原則です。

第3原則は、実は意外に知られていない気がするんですが、もとのポジションにもとの地位で戻れることを法定化したことです。僕は前、大企業にいたんですけど、最近は民間も厳しくて。例えば10人いたら、1番から10番まで順位を付けるんですね。

ある女性がそのグループで2番だったとします。それで、産休で休んだと。そしたら、1年は働いてないわけですから、上司が「この人は今年働いてないんだから10番にしよう」と言うわけです。これは、わりと理解できる

でもこれをやってしまうと、例えば2年休んだら、2番の人が10番とランクを付けられたら、もう明らかに戻れないんですよね。

シラク3原則の第3原則は、赤ちゃんを産むということはものすごいいろんな勉強をしているわけだから、2番で休んだ人は2番で戻さなきゃいけないということを法定化したんですよね。そうすると、男性でも女性でも安心して休める。

こういう枠組みを作ったことで、もともと94年に(出生率は)1.6と少しでしたが、2006年には2.0くらいに戻っているので、こういうベーシックな政策をきちんとやれば、10年くらいで0.4や0.5ポイントは直すことができると思います。

【中略】

フランス文化はもう放っておいていいのだろうかという議論をした中で、やはりフランス文化を残そうと。フランス文化を残すとはどういうことかという議論をすれば、それはフランス語を話す人口を増やさなければ、絶対に文化は残らないと。それがシラク3原則です。

日本の人口減少対策を小泉進次郎氏が語る - ログミーBiz

今から日本の将来にとって、とても大事な話をします。特に女子の人は、まず顔を上げて良く聴いてください。女性にとって最も大切なことは、こどもを二人以上生むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります。

なぜなら、こどもが生まれなくなると、日本の国がなくなってしまうからです。しかも、女性しか、こどもを産むことができません。男性には不可能なことです。

「女性が、こどもを二人以上産み、育て上げると、無料で国立大学の望む学部を能力に応じて入学し、卒業できる権利を与えたら良い」と言った人がいますが、私も賛成です。子育てのあと、大学で学び医師や弁護士、学校の先生、看護師などの専門職に就けば良いのです。子育ては、それ程価値のあることなのです。

もし、体の具合で、こどもに恵まれない人、結婚しない人も、親に恵まれないこどもを里親になって育てることはできます。

次に男子の人も特に良く聴いてください。子育ては、必ず夫婦で助け合いながらするものです。女性だけの仕事ではありません。

人として育ててもらった以上、何らかの形で子育てをすることが、親に対する恩返しです。

子育てをしたら、それで終わりではありません。その後、勉強をいつでも再開できるよう、中学生の間にしっかり勉強しておくことです。少子化を防ぐことは、日本の未来を左右します。

やっぱり結論は、「今しっかり勉強しなさい」ということになります。以上です。

大阪の中学校長「女性にとって最も大切なことは子供を2人以上産むこと」(発言詳報) | ハフポスト

まともに文章を読める人ならこの時点で「全く同じ話?どこが?」と困惑するような内容だと思いますが、まともに読まない(読めない)人のために要点を抜き出してみます。

シラク三原則】

  • フランス文化を残すためには少子化を解決しなければならない。
  • 出産は女性固有の権利であり、子どもを生むか生まないか、いつ生むかは女性が自由に決めることである。国は女性が出産という選択をしやすくするために経済的な支援を行う。
  • 子育てとキャリア(仕事)の両立は不可欠なので、それを可能にするために保育サービスを充実させる。また、出産や子育てによってキャリアに不利益が生じないよう育児休暇後の企業内ポジションを法によって保証する。

【寺井校長】

  • 少子化が続けば日本という国がなくなってしまう。
  • 女性にとって最も大切なことは子どもを二人以上生むことである。
  • 子どもを二人以上生むことは女性にとってキャリアを積むことよりも価値がある。女性は子どもを育ててから大学等で学び専門職に就けば良い。

どうでしょう、「同じ」なのは「少子化どげんかせんといかん!」という危機意識だけで、そこから先は真逆の話をしていますよね。むしろ対立する思想・思考だと言っても良いくらいです。

「生む/生まない」は女性の自由だと認めたうえで「子どもを生む女性のために育児支援やキャリア保証などの社会制度を整えよう」というシラク三原則と、「社会(国)のために女性は自身のキャリアよりも出産を優先せよ」と一方的に要請する寺井校長。両者の違いは明白です。寺井校長のスピーチには「女性(個人)の権利」や「選択の自由」という視点が欠落しています。炎上のポイントはここでしょう。

フランスだけでなく、現代の日本においても出産は義務ではなく個人の選択です。これは大前提です。そして、その選択をした女性に多大なデメリットが発生するから子どもを生む人が少ないのです。そこを解消しないまま「子どもを生むことの価値」を説いたところで女性が「じゃあ生もう!」なんて思うはずがありませんし、「少子化を解消しないと国が滅ぶ」などと言っても「だったら生めるような環境にしてくれよ!」と反感を買うだけの話でしょう。キャリアに関してはいわずもがな。

そのことはやまもと氏もわかってるはずなんですけどね。その証拠に氏は以前こんなことを書いますから。

出口さんも論じておられるとおり、人口に関するシラク三原則については、我が国についても然るべき分析は行われ、議論として充分に成立していることは良く分かります。平成24年度の「子ども・子育て白書」を読んでも、大変な力作となっており、子育てしている私にとっても納得する記事や指摘が満載です。概要だけでも読んでみてください。

【中略】

ぶっちゃけ、出生率を向上させるためには国民の出産へのインセンティブが必要で、インセンティブをかきたてるには政策が必要で、政策を実現するには政治家のインセンティブが必要で、政治家のインセンティブを高めるには国民の要請が必要です。出生率の議論は有識者の間では「何が必要か」がすべて分かっているので、一人でも多くの国民が「地域や社会を衰退させないために、政府や自治体が出生率改善のための予算をつけるべき」という主張をしないといかんということなんですね。逆に言えば、出生率向上に寄与したがらない政党は売国奴だと批判されても仕方が無い状況なのだということでもあります。

日本の出生率を上げようよ、平たく言うと子供生もうよ(山本一郎) - 個人 - Yahoo!ニュース

ちなみに、目に見えるインセンティブは欠かせませんがそれだけでは不十分でしょう。少子化対策の研究者のなかには、フランスの出生率が改善した要因として、さまざまな施策と同時に「家族や女性(母親)に対する社会的な価値観の変化」を挙げている人もいます。

出産は「女性の義務(責務)」ではなく「女性の権利」であり、「権利」だからこそそれを行使することで不利益を被るような社会であってはならない。それがシラク三原則の根底にある考え方です。いまの日本が学ぶべきはまずその部分なのではないかと思います。

この問題に関してやまもと氏の言うような「日本の病気」なるものがあるとしたら、それは「親(とくに母親)は子どものために人生を捧げるべき」という観念が強すぎることではないかと思います。だからいつまでたっても出産や育児を行う女性のサポートが貧弱(特にシングルマザーは酷い)だし、仕事と子育てを両立させようとする女性に向けられる視線も厳しいままなのだと。そうした価値観も変えていく必要があるでしょう。

「親は子どものために人生を捧げる」よりも「親は子どもと一緒に自分の人生を生きる」という価値観の方がずっと素晴らしいですし、それができる社会でありたいですね。