パリス・ヒルトンが見せた“カウンター広告”の妙。

「パリスに清き一票を」、ヒルトン家令嬢が米大統領選に宣戦布告 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

共和党の大統領候補でありベトナム戦争の英雄でもあるジョン・マケインが、全米NO.1のお騒がせセレブ(ちなみに英国NO.1は現在エイミー・ワインハウスね)パリス・ヒルトン嬢に強烈なカウンターを食らったって話。いやいや、大笑いしてしまいました。パリス嬢、素敵です。

簡単に経緯を。

7月にオバマに対するネガキャンCMをマケイン陣営がつくったんですが、そこでブリトニー・スピアーズとパリス・ヒルトンの映像が使われてたんですね。放映されていたCMがこれ。

Celeb

まあ何が言いたいかと言うと、『オバマは人気があるけど、ブリトニーやパリスと同じ中身のないセレブ野郎だろ。そんな奴に世界を引っ張っていけるリーダーシップがあんのかよ?』と、こう主張したわけです。

以前からオバマのエリートっぷりやセレブ的人気は格好の攻撃材料になっていて、予備選の段階からヒラリーも似たようなネガキャンをやっていました(ここまであからさまじゃないけど)。実際に、低所得者層や一部の年長者からは同種の批判も出てきていたようですし、そこを突くのは戦略的に間違いじゃないんです。

ただ、“比較対象”としてパリス嬢を持ち出したのが悪かった。

実は、ヒルトン家はマケイン氏の選挙資金として50万円程を寄付している彼の立派な「支持者」だったんです。実際に支援している候補の選挙対策CMで自分の娘がけなされたわけですから、当然ヒルトン家としては怒りますよね。で、放送後すぐに母親のキャシーさんがブチ切れて、

「マケイン氏に対し、私からは3つのことを申し上げたいです。あなたのやっていることは、たくさんの寄付をしてくれた皆さんからのお金を無駄にしています。そして、数百万という人々が家や職を失っている中、このようなくだらないCMで注目を集めようとするなど、全くの時間の無駄です。そして次期大統領を選ぶという大切な時にこのようなやり方をしているようでは、あまりに軽薄です。」

というコメントをヒルトン家の代表としてオンライン・ニュースサイトに発表。一気に火がついた、というわけです。

しかも、この流れでマケイン陣営がパリス側に無許可で映像を使用していたことも発覚(ブリトニー側の情報は良く分からないんですが、多分無許可でしょう)。マケイン側は反論の余地が無いくらい押し切られていたんですが、更に追い討ちをかけるように、それまで沈黙を保っていたパリス嬢が自作の“立候補ビデオ”をwebで公開。

http://www.funnyordie.com/videos/64ad536a6d

ビデオ冒頭で、昔アメリカで人気のあった“ゴールデン・ガールズ”、スターウォーズヨーダカーネル・サンダースなんかのビジュアルとマケインをこれ見よがしに並べて、『ダンスもだめで、バケツ入りのビールが出されていたような古い古〜い時代から来たおじさんに今のアメリカをリードできるの?』とまず痛烈なカウンターを浴びせます。

更にパリス嬢は豹柄のセクシーな水着で登場。プールサイドで優雅にくつろぎながら、

「米国のみんな、こんにちは、パリス・ヒルトンです。わたしもセレブよ。大昔に生まれたわけじゃないし、もう1人のヤツみたいに『変化』を約束したりしないけど。あたしはただ、ホットなだけなの」

「でもしわしわの白髪男がわたしの映像を選挙活動に使ったってことは、わたしは大統領候補だってことだと思うの。だから、白髪野郎の支持を受けて、みんなにも知ってほしいんだけど、わたしはこの国をリードする準備が超できてるって感じなの」

 パリスさんはエネルギー戦略の代替案として、マケイン候補と対抗馬の民主党バラク・オバマBarack Obama上院議員のそれぞれの案を組み合わせた「妙案」を提案。「環境面で厳しく監督しながら、限られた範囲で海底油田を掘るわ。そして税金の優遇措置を設けて、デトロイト自動車産業)にハイブリッド車や電気自動車を作らせるの。これでエネルギー危機も解決よ。公開討論会で会いましょう、ビッチ(あなたたち)」

 最後にパリスさんは副大統領候補についても検討中だとし、歌手・作曲家の「リアーナ(Rihanna)と思ってるの」と発言。さらに「ホワイトハウスで会いましょうね。あ、わたしピンクに塗っちゃうかも。じゃあね」としめくくっている。

「パリスに清き一票を」、ヒルトン家令嬢が米大統領選に宣戦布告 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

と軽やかに“自説”を披露。

これにはマケイン側の広報担当官も『オバマ氏よりパリス・ヒルトンは有名とは言えないが、彼より立派なエネルギー政策を持っているのは確かだ』と苦しい皮肉を返すことしかできず、また『彼女がこれほど話せるとは思わなかった』というコメントも続出するなど彼女の株を大きく上げる結果となったわけですね。既にこのネタを使った動画がいくつもYoutubeに上がってます(オバマを皮肉るバージョンもアリ)。

実は、共和党は6月に行われたテキサス州の集会で、まっ黒の下地に『もしもオバマが大統領になっちゃったら、それでも“ホワイト”ハウスって呼ぶ?』と白い文字が書かれたバッジを販売し「人種差別的だ!」と批判を受けたばかり。マケイン陣営のPR戦略上のミスが続く状況となっています。

まあマケイン陣営も間抜けだと思いますが、この“カウンター”を仕掛けたパリス・ヒルトン側の戦略は本当に鮮やかだと思います。

自身の最大の商品価値である“お騒がせセレブ”というパブリックイメージを保ちながら、マケイン側の弱点である“古臭さ”を突くことで発端となったCMを切り返し、更にまともな環境・エネルギー政策(“環境”を含めたのがミソ)の提言を通じてこれまでの“馬鹿なセレブ”というイメージの上書きまで可能にしています。

そしてそれらを『架空の立候補表明』としてまとめ、ネタ性を確保することで無粋なツッコミへの予防線を張る周到さ。もちろん、発端はマケイン陣営の無粋なCMなわけですから、彼女の安全圏は予め確保されています。TVなどの既存メディアではなく、流通速度が速くネタ性の高いwebで公開したのも以後の流れを予測してのことでしょう。実に見事です。

もしかしたら、冗談抜きに、8月第一週に最も支持者を増やしたのはマケインでもオバマでもなくパリス嬢だった、なんてことになるのかもしれません。

パリス・ヒルトン側のブレーンはかなりのやり手みたいですね。マケイン陣営は今からでもこの人物にコンタクトを取って、自分達のPR戦略を立て直す手助けをしてもらうべきだと思いますよ、マジで。


ま、この手の話は下らないといえば下らないんですが、セレブとはいえ一介のタレントに過ぎない人間が、将来の大統領候補を向こうにまわして見事な啖呵を切るなんてこと、日本では考えられません。色んな意味で『アメリカって面白いなぁ』ということを再確認させてもらったお話でした。

感謝の気持ちを込めてパリスたん応援歌。

MU - Paris Hilton

※画質最悪