『WEB2.0時代』のアーティスト代表例(おっさん向け)
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d6f2b616ee2a0bee1b2590537bafb058
「音楽産業は成長している」というのはある意味で正解なんだけど、WEB系のメディアも含めて、そこで流通しているコンテンツの中身まで踏み込んで言及している人はあんまし多くない。おまけに、個別の事例を挙げている人はほとんどいない。
コンテンツの流通経路や量には興味津々なのに、その中身や種類を気にしないのは何でだろう。コンテンツそのものの質の変化や個別の事例を無視して「市場」の話だけしたってあんまし意味ないと思うんだけど。そもそも、池田先生はプリンス以外の事例を知ってるのかな。
暇だから、超有名な例だけ簡単にまとめてみる。
■アーケード・ファイア
カナダ、モントリオール出身の大所帯バンド。60年代のフォークやブルースからポストロックまで様々な音楽的要素と、反権力/反メジャー志向を盛り込んだ「正統的USインディ」を引き継ぐサウンドを展開する。2005年のメジャーデビューアルバム『フューネラル』が口コミで広がり大ブレイク。特に、ネットにおけるアーティスト評価に絶大な影響力を持つWEBマガジン「ピッチフォーク」が強く後押ししたことで、ブログやSNSでの評価が先行した。この為、「ネットがブレイクさせた最初のバンド」と言われている。
The Arcade Fire-"Neighborhood #1 (Tunnels)"
■クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー
NYのブルックリン出身の5人組ロックバンド。ファースト・アルバム『クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー』はレーベル契約なしの完全インディペンデントながらアメリカ国内で大ヒット。アメリカ・ツアーは、ほぼ全公演がソールド・アウトとなった。ここでもネットの果たした役割は非常に大きく、その噂は世界中に広がり、彼らはメジャーでのレコード契約がないまま12カ国ものチャートにランクインした。手作りのギミック満載の1stもいいが、デイヴ・フリッドマンをプロデューサーに迎えた2ndは出色の出来。
Clap Your Hands Say Heah-"Is This Love?"
■OK GO
デビューは2002年。当初は一部のインディロックファンだけが知る、どこにでもいる“ちょっと面白いバンド”だったが、05年に2ndアルバムからの先行シングル『A Million Ways』の、メンバーが自宅裏で撮影した「ダンスPV」がyoutubeにアップされ人気ビデオに。このダンスを自分たちが踊ってアップするユーザーが続出し、バンドオフィシャルのコンテストまで開かれた。06年のMTVビデオアワードでもそのダンスが披露され、同年を代表するPVとなった。
余談だが、「インディロック+ダンス」というアイディアは彼らのオリジナルではなく、かつてヨ・ラ・テンゴが十八番として展開していたもの。しかし、彼ら程のブレイクはしておらず、ここからも音楽におけるyoutubeの強い影響力が垣間見える。
OK Go- "A Million Ways"
[追記]
MTVアワードで披露されたのは、”Here It Goes Again”です。
■アークティック・モンキーズ
言わずと知れた「マイ・スペース世代」の代表的バンド。デビュー前のデモ音源がファンの手によりWEBにアップされ話題に。2006年の冒頭にリリースされたデビューアルバムは当然の如く初登場NO.1を獲得し、2006年、2007年の2年連続で「ブリット・アワード」を受賞するなど各賞を総なめにした。アーティストイメージのコントロールにも意識的で、WEBを使ってファンに直接メッセージを届ける一方、人気音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」の出演を断るなど、既存のアーティストプロモーションからは一定の距離を取る。
Arctic Monkeys-"When The Sun Goes Down"
■リリー・アレン
「デジタル世代のスカ・ポップ」を体現するルード・ガール代表。ビートは軽やか、しかし言葉は真っ黒。マイ・スペースで公開していたMIXやオリジナル楽曲が話題となりデビュー、2006年のUKを代表する女性アーティストに。彼女はイギリスの有名コメディアンの娘で、パリス・ヒルトン的なセレブライフとは無縁ながらジェンダーや政治、あるいは単なる他人の悪口など、歯に衣着せぬ発言で物議を醸すこともしばしば。微妙に可愛くないところが個人的なお気に入り。
Lily Allen-"Smile"
■ナールズ・バークレー
ビートルズ『ホワイト・アルバム』とジェイ・ディー『ブラック・アルバム』のマッシュアップ『グレイ・アルバム』で話題となったデンジャー・マウスと、グッディ・モブで活躍したシー・ローが結成したユニット。デビューアルバムからの先行シングル『クレイジー』が、レコード発売前のダウンロード販売のみでUKチャートNO.1を獲得。デジタルダウンロードのみでUKチャートを制した初のアーティストとなった。
Gnarls Barkley-"Crazy"
おまけ
Beatle×Jay-Z‐"The Grey Video"
大体こんな感じだろうか。
「WEBによるコンテンツの大量流通」が音楽「産業」はともかく音楽そのものにいい影響しか及ぼしていないかというとそうでもなくて、例えばアメリカのインディシーンなどではその流通の加速によってローカルなコミュニティが崩壊し、個々の作品のクオリティが保てないケースや、ネット上での評価の乱高下が激しく、アーティストがそれに振り回されるケースなど、90年代冒頭にシアトルで起こったことが全米規模で起こっているという懸念もある(昨年末の米ローリング・ストーン誌でこのような特集が組まれていた)。
また、大物アーティストの再結成がここ数年増加していることと、ユース・カルチャーの中心がクラブからロックに戻ってきたことがこの産業構造の変化に大きく作用しているってことも考慮に入れなければならないだろう(あと、ベビー・ブーマー世代が引退を前に音楽に「戻ってきた」こともかな)。「ライブ不況」と言われ、フェスティバルが軒並み閉鎖していたのはつい数年前の話だ。
ちなみに、賢明な池田先生はお分かりのことだとは思うが、現在の音楽産業がライブ中心にシフトしているのは単にデジタルダウンロードによる楽曲販売の単価が低いからでしかなく、「レコード音楽」に比べて「ライブ音楽」がコンテンツとして優れているからではない。また、「ライブ」には物理的・時間的制約が大きく、その準備から実施するまでのプロセスの煩雑さやコストの膨大さ故、「ライブによる収益」を増大させる為にはそれなりの規模と投資が必要となる。このビジネスモデルはかなりリスクが高い。
だからこそ、全てのアーティストがライブを最大の収益機会として設定できるわけではなく、その手法を採用できるのは、ある程度数字が見込める大物アーティストや、既に一定のファン層と話題性が確保されている「再結成バンド」に限定されてしまう。
逆のパターンだってある。例えば、つい最近2ndアルバムがUKチャートNO.1になったエディターズは、アルバムリリース直前に出演したグランストンベリーでの素晴らしいステージが話題となり、セールスを大きく伸ばした。実際に「レコード販売」と「ライブ集客」との相関関係を調べてみればいいと思う。
つまり、「ライブ」と「レコード」との関係は単線で考えるべきなのではなく、相互が補完し合う円環として考えなければ意味がない。その中で、収益機会をどこに設定するかは、個々のアーティスト特性やファン層などにより考えていく事柄だろう。ちょっと音楽産業のビジネスモデルを安易に考え過ぎなんじゃないのか。
そもそも、「レコード」が「ライブ音楽を収録する為に使われていた」なんて何十年も前の話。現在では、「ライブ音楽をレコードに収録する」という手法と「レコード音楽をライブで再現する」という手法は等価になっており、文化的な価値に差異はない。ライブでの一過性を求められるアーティストもいれば、レコードの再現性を求められるアーティストもいる。求める側のファンも同様だ(「他人のレコードをかけるだけ」のDJが、なぜあんなに人気なのかを考えてみればいい)。
「レコード」が登場してから、「ライブ音楽の録音」という手法から始まり「ライブでは鳴らせない音を鳴らす」という「レコード芸術」へと発展していったのがポップ・ミュージックの歴史なわけで、その文化的変遷やコンテンツの特性を無視して産業構造の変化だけを語るのは馬鹿がやることだろう。「ライブ音楽」では絶対に生みだすことのできない多くの素晴らしいコンテンツを「レコード音楽」は生みだしてきたわけで、「レコード」と「ライブ」の関係はそんなに単純なものじゃない。真に「コンテンツとしての音楽」を語るなら、この「レコード」と「ライブ」の相関関係をもっと多元的に捉えなければ本質を見逃すことになる。
ま、こんなの、キング・タビーやマーティン・ハネットみたいな「天才レコードエンジニア」が手掛けた作品を楽しんでる人からしたら常識なんだけどね。
しかし、「コンテンツ産業は〜」なんて大騒ぎする人程、実際に流通している「コンテンツ」を知らないんじゃないかと思うのは僕の勘違いなのかね。いい加減うんざりするんだけどな。