CDが売れないのと“プロダクトとしての美しさ”は関係ないと思うよ。

ネタにマジレスは承知の上。

なんでこんなことになってしまったのだろう?――そのことを思う時、ぼくは「プロダクトとしての美しさを蔑ろにしてきたツケが回ったのではないか」と思う。

昔、CDが出回った当初、それは人々から大きな反発を受けた。反発の理由は主に二つあって、一つは音が薄っぺらいというもの、もう一つはジャケットに魅力がないというものだった。

このうち後者に関しては、ケースが小さくなったことで、それまでのレコード文化が営々として築いてきたジャケットデザインというものの伝統を、そこでぷっつり途切れさせることになったというのがある。また紙ジャケットからプラスチックケースになったことで、プロダクトとしての魅力も大きく損なわれた。CDは、プロダクトとして初めから美しくなかったのだ。

http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20080717/1216283129

ここ事実誤認ね。

CDにもパッケージ文化はきちんとあって、作品性に合ったプロダクトデザインがきちんとなされるようになってる(紙ジャケ、ブックタイプ、缶ケース等々)。だから、“レコード文化が営々として築いてきたジャケットデザインというものの伝統を、そこでぷっつり途切れさせることになった”なんてこともないし、アナログレコードと比べてCDのプロダクトデザインが劣ってるなんてこともないと思う(個人的な好き嫌いは別だけど)。

現在においてもアナログレコードがしぶとく生き残っているのは、DJカルチャーの影響が非常に大きい。機材の問題(パイオニアからCDJ-50が出たのが確か1995年。CDJでスクラッチまでできるようになったのってつい5年くらい前の話)と、“アーカイブの参照”というDJカルチャーの特性によって、アナログレコードはDJカルチャーとの蜜月関係をほぼ独占することができた。

アナログレコードという“古いメディア”は、DJカルチャーという“新しい文化”と出会うことで長らく延命してきたわけだけど、CDと同じく音源のデジタルデータ化と機材・ソフトウェアの発達によって多くのDJがアナログレコードを捨ててデジタルデータに走っている現在では、その延命もほとんど限界に来てしまっている。アナログレコードの売れ行き低下はCD以上に深刻だ(宇田川町の惨状を見よ)。だから、“DJカルチャー”という下駄を脱ぎ捨ててしまったアナログレコードも、CDと同じく“価値が際限なく下落”してるってのが正しい現状認識なんだよね。

そういう意味では、CDだろうがレコードだろうがメディア(媒介)としての寿命が終われば簡単に乗り換えられてしまうってことは明らかなわけで、CDが売れなくなったことと“プロダクトとしての美しさ”は無関係だってことになる。

個人的な好き嫌いを語るのは構わないけど、それを一般化して語るならもちっと文化的背景を参照した方がいいと思うよ。大して難しい話でもないわけだし。


ちなみに、UKではROUGHTRADEみたいなレコードショップの仕掛けで、デビュー前の新人アーティストの自主制作7インチが500枚とか1000枚単位で即完売している模様。プレミアが付いて物凄い高値で取引されているものもちらほら。買っているのは10代から20代の“デジタル世代”が中心。音楽がデジタル化されていくらでも複製可能になったからこそ、逆にこういう“プレミアムなもの”は現物として手元に置きたい、ということなんだろうね。

また、NMEみたいな音楽媒体はもちろん、地方の一般紙に有名バンドの新作CDが付いてくる、なんてことも結構頻繁にあるようだし、それによって新聞や雑誌の部数が大きく伸びるという効果も出ているそう。“商品”としての価値は下がっても“メディア(媒介)”としてのCDの価値はまだ残ってるみたい。

個人的には、この辺の状況が、CDやアナログレコードが生き残るためのヒントになると思う。