乙女男子はパリを目指す!〜Friendly Fires『Friendly Fires』〜

Friendly Fires

Friendly Fires

サマソニでライブ見てずっと楽しみにしていた一枚。すっげーいいです。


いきなりですがちょっとおさらい。

ストロークス以降の『00'sロックンロール・リヴァイヴァル』というアメリカ発のムーブメントを発端とし、諸所の海外バンド(ホワイト・ストライプスとかハイヴスとかヴァインズとか)を経由して、リバティーンズ起爆剤に国内のインディロックが再興された、というのが00年代前半からのUKシーンのひとつの流れ。その最良の成果物がアークティック・モンキーズ

一方、ラプチャー以降の『ポスト・パンク・リヴァイヴァル』を発端とし、ブロック・パーティやフランツ・フェルディナンドのようなアート・ロック勢を経由して、クラクソンズに代表されるニュー・レイヴ〜ニュー・エレクトロ(この辺の音は『ニュー・エキセントリック』って名前で括られてるみたい)に移行してきた、というのがもうひとつの流れ。こっち側の最良の成果物がフォールズ(だと僕は思ってます)。

乱暴にまとめるとこんな感じになるわけです。

んでね。フレンドリー・ファイヤーズのこのアルバムって、この『ラプチャー以降』の流れを大きく変える重要な一枚だと思うんですよね。


というのは、ラプチャーって、NYを拠点にしていたということもあるんですけど、実はもの凄くハウスと親和性の高い音楽をやっていたんです。

例えば1stアルバムの冒頭を飾る「Olio」や2ndアルバムからの先行シングル「Get Myself Into It」なんかを聞けば、このバンドが如何にハウスの快楽や方法論を踏襲しているかがよく分かります。

The Rapture - Olio

The Rapture - Get Myself Into It(Live)

ですが、ブレイク以降、「House of Jealous Lovers」のインパクトが強すぎたのかポスト・パンクからの影響ばかりがピックアップされてしまって、彼等がやろうとしていたことが正確に理解されなかった。ラプチャーは実はとても不幸なバンドなんです。

なので、「ラプチャー以降」のUKバンドからは、その“ハウス的快楽”がきれいさっぱり抜け落ちちゃってる気がするんですよね。個人的には、「以降」のバンドに対する最大の不満点がそこでした。

フレンドリー・ファイヤーズも当初はその他のバンドと同じくハウス色は強くありませんでした。最初のシングル「On Board」を聞いた限りでは、ただのクラクソンズ・フォロワーくらいにしか思いませんでしたから。

Friendly Fires - On Board

しかし、初期から“ハウス・レジェンド”のひとり、フランキー・ナックルズの「Your Love」をカバーしていたように、その裏ではしっかりとハウス・ミュージックに目を向けていたんですね。

Friendly Fires - Your Love(Frankie Knuckles Cover)


んでもって、moshimoshiから出した2nd「Paris」でその本領を発揮します。

Friendly Fires - Paris

歌詞はこんな感じ。

いつの日かパリに住むんだ
約束する
僕は本気なんだ
いつかお金が貯まったら
約束する
僕は本気だよ


そしたら、君と一緒にクラブに繰り出すんだ
目一杯楽しもう!
約束する
だからあと少しだけ待って


僕らは毎晩星を眺める
星々は僕らのものになる
それは僕らのために瞬く
毎夜、街に火が灯る
街は僕らのものになる
それは僕らのために輝く


いつの日かパリに住むんだ
約束する
僕は本気なんだよ
僕は完璧なフランス少年になって
完璧なフランス少女の君と出会う
約束する
僕は本気だよ



だからほら、荷物をまとめに行くんだ
長旅になるから
凄く楽しみだね
約束する
その間、僕らはずっと一緒にいるんだ



僕らは毎晩星を眺める
星々は僕らのものになる
それは僕らのために瞬く
毎夜、街に火が灯る
街は僕らのものになる
それは僕らのために輝く

DMCの根岸君が歌っていてもおかしくないですよね、これw

他のバンドが粗雑なエレクトロに傾倒していく中、それに背を向けるかのように積み上げられた丁寧なサウンドスケープとリズム、ハウス的な高揚感を煽るメロディ、そして“乙女男子”な歌詞が見事にマッチしたこのシングルは大絶賛され、インディ・ロックとハウスを繋ぐ期待の新人として注目を集めます。

そんな状況下でリリースされたのがこのアルバム、というわけ。


このバンドが素晴らしいのは、ハウスの影響下にありつつも、単純なオールド・ハウスの再現をやっているわけではないというところ。ハウス・ミュージックの魅力を完全に咀嚼し、アップデートした形で引用してるんですよね。

そういう意味では、ヘラクレス&ラブ・アフェア(レーベルはラプチャーを排出したDFA)に代表されるアングラハウスの最新解釈と並べるととても面白いです。ハウス・ミュージックが新たな局面を迎えているのがよく分かります。

Hercules and Love Affair - You Belong

Hercules And Love Affair - Blind (Live)

※ライブだとヴォーカルがアントニーじゃないんだよなぁ・・・。


あるいは。

ここまでのことをやっておきながら“借り物感”が一切なく、全てをポップにまとめることのできる咀嚼力から、“フレンチ・ハウスが生んだ最良のポップ・バンド”『フェニックス(Phoenix)』を思い出す人もいるかもしれません。

Phoenix - If I Ever Feel Better

Phoenix - Everything is everything


こういう、色んな方面から切り取れるバンドは大好物です。エレクトロ一辺倒に飽き飽きしていた人は聞いてみると良いと思います。

シーンが飽和してくる頃になるとこういうバンドがピックアップされるんですから、UKインディはいい状態にあるんでしょうね。羨ましいです。


Friendly Fires Reading and Leeds

レディング・フェス中に出演したBBCの特別番組でのライブ。エド・マック(ヴォーカル)の腰と尻を凝視せよ!この踊りこそハウス!


Friendly Fires: ライブ道
Friendly Fires その2: ライブ道
Friendly Fires その3: ライブ道

海外でのライブ評。ファッションセンスにも注目。