『CD/レコードを買う』って本当は凄く贅沢で楽しいことなのにね。

高校生は、音楽CDのことをなんと呼ぶか?:小鳥ピヨピヨ
http://d.hatena.ne.jp/y_arim/20081022/1224686880


それに関連して


この、バカ共がっ その2(今度は相手が違いますけれども): 松浦晋也のL/D
いつまで音楽はCDにこだわり続けるのだろう? - 北の大地から送る物欲日記



この辺の話の感想は、

数字と自分の経験だけで判断するのも危険ではあるけれど、我々が思い描く『デジタルエイジの申し子』というイメージに沿って、そのデジタル環境に最適化された『今どきの子』像を作り出しちゃうのもアレだなぁと思ったり。

今どきの高校生もCDを購入するし、レンタルするし、友だちからも借りてるよというだけの話 - P2Pとかその辺のお話@はてな

と同じく、『音楽のデジタル化最高!』という単純なストーリーだけがピックアップされているようで、「ヘビーユーザー」としては凄く違和感があります。

これらの話を、単に「媒介(メディア)」として優劣を語るだけだと大切なものを見誤ることになります。実際に音楽を手に入れるまでの「プロセス」を無視していることになりますから。


なんというか、みんな『CD/レコード買う』ってめんどくさいことだと思ってません?「音源を手に入れるために仕方なく買ってる」というか。でも「何かを買う」って本当は凄く贅沢で楽しい事だと思うんですよね。

所為『音楽好き』を自称する人のなかには、『CD/レコードを買う』という行為に『音源を手に入れる』という本来の目的以上の価値を感じている人も少なくありません。「レコード屋に行き、実物を手に取り、試聴し、購入する」という一連のプロセスには、それだけの意味と快楽が確かに存在します。

僕自身そうですが、amazoniTMSが登場しても「レコード屋」に通い続けるのは、それらが『音源を手に入れる』という目的の代替にはなっても、『音楽を買う』という行為が持つ快楽の代替にはならないからです。

僕にとって『CD/レコード買う』という行為は何ものにも替えがたい最高の快楽です。時間があるときは丸一日かけてお気に入りのレコード屋をはしごします。

僕のケースはあまり一般的な事例にはならないかもしれませんが、例えばタワーレコードHMVなど大型店舗の試聴コーナーで2時間とか、レコファンで中古レコードを漁っていて1時間とかはそれほど珍しくはないでしょう。

単に利便性や効率だけを考えるなら、これらの行為は著しく無駄です。試聴なんてネットでいくらでもできますし(YoutubeとかMyspaseとかiTMS)、中古レコードもamazonマーケットプレイスヤフオクで手に入ります。ですが、上に書いた通り、それらは目的の代替にはなっても、行為そのものが持つ意味や快楽の代替にはなりません。

もちろんデジタルデータによる「音楽配信」や「楽曲共有」が、音楽をより多くの人に届けることの出来る有効なツールであるということに異論はありません。お金がない学生(僕もそうでした。今だってそんなに金ないけど)や遠隔地に住んでいる人にとってはまさに最高のツールでしょう。選択肢が増えるのは、ユーザーにとっても、音楽そのものにとっても良いことです。

ですが、「何かを買う」という行為は、『目的のものを手に入れる』ということ以上の快楽を含んでいます。数多ある選択肢の中から、自分にとって必要なものを選択し、手に取り、比較し、試し、決断し、購入する。人は「必要だから」これらのプロセスを経るのではありません。このプロセス自体が大いなる快楽となるからこそ、わざわざ不便を承知で「遠回り」するのではないでしょうか。

ネットを介した音楽流通は、この意味や快楽を大きく削ぐことになります。そしてそれは「音楽そのもの」にも重大な影響をもたらします。

アメリカでは、ネットによる音楽流通(情報伝達の速度が速まったことを含む)の影響で、個々の楽曲やアーティストの消費スピードが加速度的に高まり、それが音楽そのもののクオリティやアーティスト活動にも影響を及ぼす事例が報告されています(確か米ローリングストーン誌)。『音楽のデジタル化』は決して万能薬ではありません。

個人的に、『CD/レコード』という“パッケージそのもの”には特に思い入れはありません。ただ、それらを購入するまで経ていたプロセスは絶対に無くなって欲しくない。それは音楽という文化をより深く、豊かにするものです。

だからもし、『音楽なんてネットで“落とす”か、友達に借りて“焼け”ば十分』だと思っている人がいるなら、声を大にして反論したい。

『お前は絶対に損をしているぞ!』と。



ちなみに、「音楽のデジタルデータ化」が大きく進んでいる英国では「レコード屋」もそのことをよく分かっていて、例えば店内に充実したライブスペースを設けて新人アーティストやDJなどの無料ライブを開催したり(レディオヘッドがやろうとして大騒ぎになった)、店員(店)がレーベルをつくって新人アーティストや海外アーティストを積極的に仕掛けたり(今までの流れの延長ですが)と、様々なアイディアで『CD/レコードを買う』という行為に付加価値を付ける努力をしています。

日本でも、高円寺の『円盤』なんかが面白いことやってますよね。

別に『CD/レコード』を買わなくても構いません。しかし、「音楽」という文化はこういう「現場」が下支えしてきたのもまた確かです。ネットを通じてできることも増えていますが、未だそれら「現場」のクオリティには到底及びません。amazonの中途半端なレビューやレコメンデーションなんかより、ベテラン店員の特設棚や手書きポップの方が遥かに実用性が高い。何より眺めているとワクワクします。情報だって実はレコード屋が一番早いんです。

技術革新による産業構造の変化や利便性の向上を語るのもいいでしょうけれど、こういう部分も本当は大事なんじゃないかなぁ、なんて思います。