私的【2008年のベスト・アルバム】まとめ

まとめるのすっかり忘れてました。

もう仕事始めになってしまいましたが、何か宿便みたいに残ってて気持ち悪いので今のうちに出しちゃいましょう。ランクは上位3枚以外適当。

では、inumash的【2008年のベスト・アルバム】をどうぞ〜。

■1位:『Hercules And Love Affair』Hercules And Love Affair

DFAが放った00年代最強のビザール・ディスコ・バンド。かつてNYの地下ディスコで繰り広げられた嫉妬と愛欲のドラマツルギーを、つまりはパラダイス・ガラージの記憶を「神話」として再構築することに成功した傑作。BPM120で繰り広げられるフリークス達の宴。

アントニー・ハガティがゲイ・ディスコを歌う”という試みを実現させただけでは飽き足らず、そこにアップ・グレードさせたディスコ・トラックを投下、ゲイ・カルチャーの耽美性を体現しているかのような彼のヴォーカルに完璧な肉体を与えたアンドリュー・バトラー(とティム・ゴールズワーシー)の手腕は見事の一言。このアルバムのリリース以降、様々な音楽メディアがその目を一斉にNYの地下シーンに向けたのは言うまでもない。これによってDFAは「00年代最重要レーベル」の座を確かなものにした。

ポール・トーマス・アンダーソン『ブギーナイツ』のエンドロールの後にやってきた「エイズの時代」。その敗北を通過したゲイ・カルチャーの新しい担い手達は未来など微塵も信用しない。刹那と孤独にまみれたまま、ただ飽きれるほどの快楽と欲望にその身を燃やし尽くす。彼らはJusticeのような“ポーズだけの刹那”を鼻で笑うだろう。そう、あんなものはただの児戯に過ぎない。

本物の刹那はここにある。本物の退廃はここにある。本物の快楽はここにある。彼らは踊り続ける。奈落の底で。星の光も届かない暗闇の中で。“嫉妬深い恋人達の家”で。愛欲の泥濘に足を取られたまま。孤独に身を捩りながら、ただその場の快楽に圧倒されること。それがダンスカルチャーの本質である。

愛、性欲、暴力、退廃。フロアに必要な全てを凝縮した2008年最高のダンス・ミュージック。

Hercules and Love Affair - Blind

Hercules and Love Affair - Time Will

Hercules & Love Affair - Hercules' Theme

Hercules & Love Affair

Hercules & Love Affair


■2位『Microcastle』Deerhunter

アトランタサイケデリック・シューゲイズバンドの3rd。半酩酊の状態を保ったまま展開される甘ったるいメロディは『Loveless』を継ぐものの証。数多あるマイブラ・フォロワー的な作品の中でも最高の出来で、若干覚醒気味の本作では「スタンダード・ポップスやブルーズが大好き」というブラッドフォード・コックスの確かなメロディ・センスを感じることができるのも素晴らしい。Fleet Foxesにヘロインをまぶしたみたいな曲もあるし。

熱心なインディ・ロックファンなら「シューゲイザー復活の年」として記憶するであろう2008年を象徴する一枚・・・なんだけどブラッドフォードのソロ・プロジェクト「Atlas Sound」がブレイクしたおかげで今作のリリース前に解散を発表済。活動休止するだけ、という噂もあるけどいずれにせよ勿体無い・・・。

Deerhunter - Agoraphobia

Microcastle

Microcastle


■3位『Friendly FiresFriendly Fires

UKハイプ組の中ではダントツNO.1。Raptureが残した夢を引き継ぎ、パリ/ロンドンとNYを、ニュー・エキセントリックとハウスとを繋ぐ存在。Hercules And Love Affairがハウスの本質を抉り出したのに対して、彼らはハウスの表層を徹底的に純化することによって新たな領域に到達した。そこで得た多幸感をロック的な開放感に結びつけた本作は、シンプルであるが故に破壊力抜群。

08年前半のインディ・アンセムとなった『Paris』はもちろんだが、このアルバムの白眉は『Lovesick』。絡みつくようなベースにファルセット・ヴォイス、そして“ちゃんと分かってる”ギターが織り成す深い深いファンクネスは本当に素晴らしい。08年デビューのUKロックは彼らとFoals、Metronomyだけ押さえておけばOKかも。

Friendly Fires - Paris

Friendly Fires

Friendly Fires


■4位『GAME』Perfume

説明不要の“テクノポップ・アイドル”。電子音を身に纏ったトリコ仕掛けのセイレーン。全てを差し出すようでいてしかし何ひとつ差し出さず、逆に全ての欲望を飲み込んで巨大化するブラックホールみたいな存在。宝箱なんてどこにもないのにも関わらず、あの笑顔に騙されて迷宮に迷い込んでいくトルネコ多数。密度を増したエレクトロ・サウンドはまるでグランジ・ロックのディストーションギターのよう。誘う歌声はより鮮やかに。迷宮はより強固で複雑に。

ほら、呼んでるよ?

『壊したいの 知ってるの 最後には 君だけ 選んで 判断は 感情の 方向は
 さあ、GAMEをしましょ。』

Perfume - GAME(LIVE)

GAME

GAME


■5位『Vampire Weekend』Vampire Weekend

コロンビア大学同窓生の脱臼インディ・アフロ・ポップ。インテリ・ポップの理想形にして2008年最高の“ほっこり”アルバム。“Talking Heads×Strokes”という単純そうに見える音楽をここまで豊かに展開できるバンドはそうはいない。80'sリヴァイヴァルの中でも安易なディスコやエレクトロに走らなかったという事実はその知性の現れ。

様々な音楽を取り込みながら、しかし過度に意識的になることなく決して軽やかさを失わないその姿勢こそ“越境”と呼ぶに相応しいもの。インテリであることが自意識の足かせとなっている多くのはてなダイアラーは彼らの姿勢に学ぶべき。特にid:qあwせdrftgyふじこlp・・・。

育ちいいんだよねぇ、こいつら。

Vampire Weekend - Cape Cod Kwassa Kwassa

Vampire Weekend [輸入盤CD] (XLCD318)

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■6位『Los Angeles』Flying Lotus

LAアンダーグラウンド・シーン発、スティーヴン・エリソンのひとりユニット。“ポストJ Dilla”の声が強いみたいだけど、エレクトロニカ寄りのサウンド・アプローチを考えればPrefuse 73と比較するのが多分適切。レーベルも「WARP」だし。「LAを題材にしたフューチャリスティックなSF映画のサントラ」と本人が語っている通り、何やらノワールづいていたハリウッドとも共振する内容。『ダークナイト』の世界を音像化した、と表現するのが一番分かりやすいかも。ダーク&ゴシックな世界にトリップしたい人には絶対オススメ。バッド・トリップには気をつけて。

Flying Lotus - Camel

Los Angeles (WARPCD165)

Los Angeles (WARPCD165)


■7位『All the Way』Growing

ブルックリンのアンビエント・ノイズ・デュオ。ゆったりめのギターを基本にオーガニックな鳴りに調整された電子音が薄く絡む最高のドローン・ミュージック。“きれいなノイズ”とはこういう音楽のことを言う。08年最高のヘッド・ミュージックにして個人的な精神安定剤。現実逃避したい時はこれをiPODにぶちこんで公園で日向ぼっこ。いいヘッドホンと暖かいミルクティーをセットでどうぞ。

Growing - Wrong Ride

All the Way

All the Way


■8位『Saturdays=Youth』M83

フランス出身のアンソニー・ゴンザレスによるひとりエレクトリック・シューゲイザー。08年の美ジャケ・ランキング第一位。『Loveless』をシロップ漬けにして白砂糖で固めたような吐き気がするくらい甘ったるい音楽。でも最高。80年代後半から90年代頭のインディー・ロックを理想的な形でアップデートしている、とか言うと“おっさん乙”とか笑われちゃうかな。ただPitchforkみたいな若いメディアでも高く評価されてるのも事実。とりあえずマイブラの甘いメロディが好きだった人は絶対はまるはず。“失った青春”のお供に。

M83 - Kim and Jessie

Saturdays=Youth

Saturdays=Youth


■9位『Aerial』2562

多様化が進むダブ・ステップシーンを象徴する一枚。ハーグ発デトロイト経由ブリストル行きのミニマル・ダブ。ミニマル・テクノとダブ・ステップの理想的な融合体。緻密な計算で配置された上ものの間を、ダビーなリズムが文字通り“浸透”していくサウンド・スケープはこれまでのダブ・ステップが持ち合わせていなかったもの。彼がシーンのパイオニアであるPinch主宰の「Tectonic」からデビューしたという事実もまた重要でしょう。ダブ・ステップはまだまだ面白そうです。

2562 - Moog Dub

Aerial

Aerial


■10位『London Zoo』The Bug

ロンドン発のリアル・ストリート・ミュージック。レゲエ、ジャングル、グライム、ダブ・ステップの“一番煙たい部分”だけを抽出して倍化させたような極太ダンスホールサウンド。Warrior Queenをフィーチャーした『Poison Dart』はまるでセレブリティを捨て去ったM.I.Aのよう。出自がブレイクコアというのも面白い。「Ninja Tune」から。

とりあえず、何やら大麻に目覚めたらしい池田信夫先生にはこの曲を↓

The Bug - Ganja ft. Flowdan

London Zoo

London Zoo


ざっとこんな感じ。全体的に見て僕の2008年はハウス&シューゲイザー&ダブ・ステップな年だったようです。今年はUSインディ・ロックがかなり豊作だった印象。UKものはハイプ感が強すぎてアルバム単位になると厳しいのが多かったかなぁ。アンダー・エイジとか大騒ぎするのはいいけど、まだ実力不足のグループを無理やり引っ張り上げて形にすんのはやめたほうがいいと思う。寝かすグループはもう少し寝かさないと。

その他ベスト・トラックはHercules And Love Affair『Blind』、ベストMIXはLuciano『FABRIC41』、ベストリミックスはVan She『Kelly』のM83リミックス、てな感じです。

今年はもうちょっとライブに行きたいです。同行してくれる人(眼鏡っ娘限定)は随時募集しております。そんではー。