“良いフェミニスト”とは“死んだフェミニスト”のこと

ルミネの件はそもそも動画を見ておらず、その是非に関する話題も(ついでに言うと批判されてるブログも)特に追いかけていなかったので何も書けないんですが、それに関連して気になるコメントを見つけたのでピックアップしてみます。

フェミニストを名乗る割に財政苦しい日本女性学会の会員になってるようでもそこに論文書いてるようでもない人たちを「ネトフェミ」と呼んでます http://togetter.com/li/688408

http://b.hatena.ne.jp/entry/245327714/comment/KoshianX

『ネトフェミ』という用語についてはその起源や用例について詳しくないので上の定義が正しいかどうかの判断はできません。フェミニズム批判の用語としてよく使われる『フェミナチ』の類型で『ネトウヨ』と似たような蔑称なんだろうな、ということが予想できるくらいです。

なので、ここで書かれていることを読んでも「ああこの人は自分の気に食わない人たちにそういうネガティブなレッテルを貼ろうとしてるのね」という程度なんですが、問題はこのあと。

まず、上記のコメントに対してid:saebouさんが疑問(というか皮肉ですねこれは)を挟みます。

id:KoshianXさんの「フェミニスト」の定義が意味不明すぎてすごい。その定義だと女性参政権運動家も女子労働の運動家も芸術家もフェミニストにならない。「内村鑑三は教会に行かないからクリスチャンじゃない」みたいな

http://b.hatena.ne.jp/entry/245327714/comment/saebou

それに対する回答がこれ。

まったくその通り。運動家は「左翼活動家」と呼べばいいんですよ。研究をしない人を女性学者を意味する言葉で呼ぶこと自体が誤り。エセ科学と同列です id:saebou/リンクあるんだけどこっちにも http://togetter.com/li/688408

http://b.hatena.ne.jp/entry/245357025/comment/KoshianX

「エレノア・ルーズベルトが聞いたら激怒しそうなコメントだなぁ…」という感想はさておき、いったいいつから“フェミニスト=女性学者を意味する言葉”になったんでしょう?念のため辞書を検索してみます。

デジタル大辞泉の解説
フェミニスト(feminist)
1 男女同権論者。女性解放論者。女権拡張論者。
2 女性を大切に扱う男性。
[補説]英語で2の意は、gallant


大辞林 第三版の解説
フェミニスト(feminist)
1 女性に対する差別や不平等の解消を唱える人。女性解放論者。女権拡張論者。
2 女性を大切に扱う男性。

フェミニストとは - コトバンク

どうやら辞書どおりの意味ではないようです。

で、id:KoshianXさんが貼っていたリンク先のまとめを読むとその論拠らしきものが出てきます。

この“フェミニスト=女性学者を意味する言葉”というのはid:aliliputさん(はてなやってるみたいなのでコールしてみた)の受け売りのようですね。

上の発言を見る限りid:aliliputさんは学術的な価値や態度をかなり重視されているようなのですが、まとめの中にはこの定義の根拠となる文献やそれを主張したフェミニズム研究者の名前は出てきません。過去のtweetやブログでも同じです。

そもそもこの方は自分のことを“フェミニストでもリベラルでもない”と紹介しており、プロフを見る限り専門は図書館学でフェミニズムを研究しているわけでもなさそうです。信じて大丈夫なんでしょうか。

念のため手持ちの文献やネットの論文等をいくつか調べてみましたが「フェミニストと名乗れるのはフェミニズム研究者だけ!」という主張は見当たりませんでした。本当に大丈夫なんでしょうか。

「日本におけるフェミニズムの大きな役割は終わった!必要になったら呼ぶから目立つ行動などせずにおとなしく研究だけをしていてくれたまえ!」という主張をなさっているように見えますが、これが“マトモなフェミニストの方のための弁護”になるんでしょうか。嫌な予感がしてきました。

なるほど、id:aliliputさんが評価しているのは“学問としてのフェミニズム”であって“社会運動としてのフェミニズム”には価値がない(少なくとも今の日本においては)という認識なわけですね。“理論と実践”を強く意識してきたフェミニストたちに真っ向から喧嘩を売る素敵な主張だと思います。でも“マトモなフェミニスト”には支持されるのでしょうね。頑張ってください。

で、これを鵜呑みにした挙句に拡大解釈するとこうなります↓

ゆのっちの顔が浮かびましたがAAを貼るのは控えます)

とりあえずざっと調べてみた限りでは“フェミニスト=女性学者を意味する言葉”というのはただの“俺定義”のようです。id:KoshianXさんはその“俺定義”に基づいてフェミニストを“本物のフェミニスト”と“偽者のフェミニスト”に分類し、偽者の方を『ネトフェミ』という蔑称で呼んでいるわけですね。で、「表に出てきてるのはだいたい偽物=『ネトフェミ』だ」と。

font-daさんは『ネトフェミ』という言葉について“観客席から「俺が認めてあげる良いフェミニズム」と「悪いフェミニズム」に分断していい気分になっているもので、それこそが批判の対象である”と言っているわけですが、そのブコメでわざわざこんな主張をするのは(馬鹿でないのなら)「俺のことを批判しろ!」と言ってるのと同じでしょう。

少し前に、公的・歴史的・学術的な定義を無視した“俺定義”で「アイヌ民族は存在しない」とぶち上げて炎上した(正確には“今もしている”)地方議員がいましたが、その方の姿が思い浮かびます。

声高に権利を主張することなく体制に従順な姿勢を見せるマイノリティ(例:日系アメリカ人)を“模範的マイノリティ(モデル・マイノリティ)”と呼ぶことがありますが、この概念は社会運動に積極的に参加し現体制への不満を述べるほかのマイノリティ(例:アフリカ系アメリカ人)を抑圧する道具としても使われてきました。上で語られている“本物のフェミニスト”と“偽者のフェミニスト”という分類はまさにその類型です。

フェミニズムは女性が権利を求める運動の中で生まれ、育ち、広まっていきました。学問としてのみ発展していったものではありません。いまなお偏見や抑圧に苦しむ女性が少なくない中でフェミニストに「社会運動を行うな。政治に出てくるな」と言うのは(少なくとも“フェミニストとしては”)「死ね」と言っているのと同じです。

従って、id:KoshianXさんとid:aliliputさんの分類をそのまま受け取るのであれば“良いフェミニスト”とは“死んだフェミニスト”のことになるわけです。

現代においてもこのようなことを臆面もなく言えてしまうのは、お二人の主張に反して“まだまだ啓蒙が必要な証拠”なのではないかと思う次第です。