「ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている日本のクラブカルチャー」ってほんと?


id:metamix ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている日本のクラブカルチャーは世界に誇れるものだ。セカンドサマーオブラブの例なんて引っ張り出してこないで欲しい。あれはムーブメントであって理想ではない。


id:inumash id:metamix いや、日本のクラブカルチャーも言うほど“きれい”ではないよ。ドラッグがタブー視されてるから“語られない”だけで。/石野卓球「“飛んてる奴”も、“ブッ飛んだことがある奴”も必要。」


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ziprockerさんのエントリから横道に逸れてしまって申し訳ないけれど、上の件に関するmetamixさんへの私信。


えー、metamixさんのこのブクマコメントには2つの部分で違和感があります。

一つ目は『ドラッグになんて頼らず』という部分。“ドラッグに頼る”というのが具体的にどういう行為であるのかは分かりませんし、metamixさんが言う“日本のクラブカルチャー”が具体的にどのパーティー/アーティストを指すのかは分かりません。ただ日本のクラブ・カルチャーの総体を見た場合、「ドラッグに頼っていない」と言い切ることはできないように思います。

僕はリアルタイムで日本のクラブ・カルチャーの全てを見てきたわけではありませんけれど、そこに関わってきた人たちの話を聞く限り、勃興期においてもドラッグ・カルチャーとは密接な関わりがあったそうですし、僕がクラブや野外レイブに行くようになってからの体験においてもそれは同じだと言えます。現在だってそうでしょう。アンダーグラウンドなものはもちろん、ある程度の規模のイベントでもやっぱり“そういう光景”は見るし、そういう人たちが周囲に与える影響は決して小さくありません(ポジティブなものもネガティブなものも含めて)。DJ/アーティスト側の事情においてもそれは同じです。

皆がシラフのパーティーは珍しくないし、ドラッグを否定するDJ/アーティストもいます。ですがそれはあくまで一部の傾向であり、日本のクラブ・カルチャーの全体的な傾向とするには無理があるでしょう。ズブズブなパーティーもいっぱいありますし、そういうパーティーが“傍流”に追いやられているわけでもない。

なので、『ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている日本のクラブカルチャー』というのは一部の事象を全体に拡大しただけで、実際の姿とは違うものであるように思います。少なくとも、僕が見てきた/見ている“日本のクラブ・カルチャー”はそのように単純化できるものではありません。日本(に限った話ではないですが)のクラブ・カルチャーってもっと懐が深いものだと思いますよ。


んで、もうひとつは『世界に誇れるもの』という部分。“ドラッグになんて頼らず音楽の力だけで支えられている”ということは、本当に“世界に誇るべき”ものなんでしょうか?“ドラッグを頼っていない”ってそんなに素晴らしいことなんですか?

その音楽やカルチャーの価値を決めるのは“ドラッグの有無”ではないはずです。スピリチュアライズドよりもモグワイの方が“ドラッグをやっていないから素晴らしい”なんて話にはならないでしょう?

また、“音楽の力だけで”とありますが、その音楽やVJなどの表現手法の大半はドラッグ・カルチャーの影響下で生み出されたものでしょう。「ドラッグ・カルチャーの成果物」を排除しては成り立たない文化です。その成果物に支えられていることを称揚しながら、しかしそれを生み出した文化は否定する。僕には酷く歪んだ態度であるように思えて仕方ありません。まるで、ロック好きの白人が黒人文化を必死に否定しているかのような。

個人的には、こうした態度の延長上に、アーティストがドラッグで捕まった途端その作品が自主回収されるというあの奇妙な光景があるように思います。

metamixさんがドラッグを忌避する気持ちは理解しますし、それを否定するつもりはありません。僕自身ドラッグ・ユーザーではないから、音楽を楽しむためにいちいち余計なリスクを背負いたくない、と思う部分もあります。しかし、音楽に限らず、僕らは間違いなくドラッグ・カルチャーから多大な恩恵を受けています。もしそれらの影響を全て排除したら、ずいぶんと退屈で殺風景な世界になるでしょう。

上澄みのきれいな部分だけをすくって語ることもできるでしょう。そうすれば、今のようにクラブ・カルチャーが悪魔化されるようなことはなくなるかもしれません。しかし、事象の一部分にだけフォーカスして実態を歪める行為は、メディアの偏向報道となんら変わりません。“ドラッグから解放された日本のクラブ・カルチャー”という理想化されたイメージは、“クラブ・カルチャーは犯罪やドラッグの温床となる危険な文化”という偏見の裏返しに過ぎません。

そこからこぼれ落ちてしまう部分、多くの人が忌避する“汚い部分”もまた文化の一部です。その部分を単純に切って捨てるようなことはできないんじゃないかと僕は思います。


あと、僕がブコメで引用した卓球の発言を前後含めてきちんと記載しておきますね。

(日本のクラブ・カルチャーが拡大しない原因としてドラッグの有無は関係あるか、との問いに)


ある。間違いなくある。それは。これは、書いてくんないかな?(慎重に、言葉を選ぶ卓球)クラブのムードは、ドラッグで左右される部分が間違いなくある。ただ海外にも、シラフ度の高いクラブっていっぱいあるんだけど。例えばビッグ・ビーツのパーティーとかさ。でも、もうちょっとアンダーグラウンドなテクノのパーティーとかになると、トんでる奴は確実にいるんだけれども、トんでない奴もトんでるムードに持っていく感じ。それにはやっぱり、トんでる奴は必要。トんだ経験のある奴も、必要。そうじゃないと、わからないから。結局カラダを揺するだけ、とかになってしまうんだ。それでもいいんだけど。『ドラッグは関係ない』って言う人もいるけど、それは音楽への接し方の問題であって、クラブでの楽しみ方っていうのとはまた別問題だからさ。


キメてる奴を『ダメだ』っていう奴らは、『やりたいんだけど羨ましい』っていう妬みだもん。本当にやらない奴は、そんなの関係ないもの。『醜くトぶのは嫌だ』とかそのくらいだよ。で、やってる奴らがやってない奴に感じてしまうのは、優越感でしょ。だからさ、やりたきゃやりゃあいいと思うよ、別に。全員やりゃあいいだろ、やりたい奴は(笑)!1回、1回ね。それが何で問題かっていうと、それでハマっちゃう奴がいるからなんだよ。俺はもう乱暴に言えば、許可制にすればいいと思う。

ちなみにこれはQ'HEYさんが書いてる日独DJサミットがあった年の年末にやった「LOOPA」の全国ツアーの時のインタビューです。WIREを始める前の年。なんとなく今は違うことを言いそうな気がする。