「見捨てられた者たち」が奏でる音楽。

http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20070829

深町先生のこのエントリを読んで、ちょっと前に似たような話を見つけたのを思い出した。


英国の少年犯罪がひどいことになっている - G★RDIAS
英国の少年犯罪:11歳射殺される - G★RDIAS

『自転車に乗って近づいてきた少年によって』というくだりに、『ずいぶん身の丈に合ったドライブ・バイだなぁ。』という不謹慎な感想を抱かざるを得ないのだけど(そういや、『24アワー・パーティ・ピープル』にも同じようなシーンがあったな)、まあ状況はどこの国もそんなに変わらないんだと思う。もちろん、社会背景やそれを引き起こすメカニズムは個々違うと思うけど。

イギリスに関しては、例えばロンドンでは一部の地域が好景気で湧く一方で、そこからあぶれた人たち(特に移民系の人たち)が郊外にスラムを形成して治安を悪化させている、というような話を2000年前半からよく聞いていた(事実かどうかは知らない)。

ロンドンのゲットーからグライム(Grime)が登場したとき、その社会背景から、多くのメディアはそれを「ブレアに見捨てられた子供たちの音楽」として扱った。出自からしてもそれは必然だったように思う。アメリカでギャングスタ・ラップが「社会から見捨てられた者たちの音楽」だと見なされたように。

そして、今最も「冷たい音」を鳴らしているのが、グライムの発展形でもある「ダブ・ステップ」。昨年秋ごろから一部で話題となり、年明けと共に日本でも全貌が把握され始めた最新のダンスミュージックで、マッシブ・アタックやトリッキーなんかの「トリップ・ホップ」的な感覚を引き継ぐものとしても注目されている(その成り立ちなんかはここが詳しい)。

かつて、ギャングスタ・ラップの文脈でサイプレス・ヒルが鳴らした「ホラー・サウンド」と同じく、グライムの過剰な部分を削ぎ落としてメランコリーを倍増させたこの音楽は、まるで金属の海にズブズブと沈んでいくような感覚を与えてくれる。深町先生の言う『冷たく荒れた貧しい犯罪』にピッタリのサウンドトラックとして機能するんじゃないだろうか。

以下代表的な奴だけ。

Burial (HDBCD001)

Burial (HDBCD001)

ザ・ワールド・イズ・ゴーン

ザ・ワールド・イズ・ゴーン

スクリーム!

スクリーム!

個人的なお気にいりはBurial(ブリアル)。他にもいくつかレーベルコンピが出てるから、気になる人は追いかけてみるといいと思う。


以前、「日本のゲットー」に絡めてHIPHOPの話をしたことがあったけど、それと同じような音楽は世界中に存在する。このダブ・ステップもそのヴァリエーションのひとつとして捉えることができるだろう(もちろん、そうじゃない捉え方、楽しみ方もあるのだけれど)。

多分深町先生も同じだと思うけど、こうした音楽や作品と同じように、『冷たく荒れた貧しい犯罪』には、単なる憤りややるせなさだけではなくて、人を引き付ける何か冷たい魅力があると思う。

その空気を敏感に感じ取れるアーティストが、本当にリアリティのある「ヤバい音楽」を作れるんだろう。

無残な犯罪は起こって欲しくない。しかし、それを引き起こした彼らと僕らの差は、それほど大きくないような気がする。誰しもが少なからず狂気をはらんでいるのと同じく、この『冷たく荒れた貧しい感情』もまた、僕らの内に存在する。

彼らを異物扱いするのは簡単だけれど、そうしている自分が「何所に立っているのか」くらいは認識しておいた方がいいんじゃないだろうか。

ほら、「彼ら」の囁き声が聞こえてこない?

“ひとを殺すなんて簡単なんだぜ。”