アメリカの名門インディ・ロック・レーベルが音楽事業から一時撤退


http://www.touchandgorecords.com


熱心なインディ・ロックリスナーなら既に知っているかもしれませんが、先週、アメリカのインディ・レーベル「Touch & Go」の規模縮小が発表されました。

USインディ・レーベルの良心、音楽事業から撤退‐MySpaceニュース

ディストリビューション部門を閉鎖、更に今後新しいバンドとの契約や新作のリリースは行わず、バック・カタログ専門のレーベルとして運営していくとのこと。既にスタッフの解雇も行われている模様です。

「Touch & Go」は1981年の設立以来、Big BlackRapemanShellacなどスティーブ・アルビニ関連の各プロジェクトを始め、USオルタナティブの伝説的バンドSlint、90年代のシカゴ・オルタナ・シーンを代表するJesus Lizardグランジ期に最高のイカれっぷりを発揮したButthole Surfers、Battlesのイアン・ウィリアムズが在籍したことでも知られるマス・ロックの開祖Don Caballeroなど錚々たるバンドの音源をリリースしてきたUSインディ・ロック・シーンを代表する名門レーベルです。

元々は同名のハードコア関連情報を扱うファンジンを母体としていたこともありハードコア/オルタナティブ関連のバンドを得意としていましたが、近年は今やNYインディ・シーンの顔にまで成長したTV On The RadioRaptureに続きオルタナティブとダンスとを見事に繋いだ!!!(chk chk chk)、NYにおけるアート・ロック復権を強く印象付けたYeah Yeah Yeahsなどの音源をリリース、“過去の栄光”にすがることなく時代性を読み取りながらエッジーな音楽を提供し続けることができる稀有なレーベルとして、多くのインディ・ロックリスナーから確かな信頼を得ています。

はっきり言って、USインディ好きでこのレーベルを知らないなんて奴がいたらそいつはただのモグリです。そのくらい重要なレーベルです。その名門レーベルが音楽事業から撤退するというのですから、インディ・ロック好きにとってはかなりショッキングなニュースなんですよ、これ。

この背景にはもちろん、レコード販売数の減少に代表されるような音楽産業全体の衰退があるのは確かでしょう。ただ、アメリカのインディ・ロックはここ数年間好調を維持しており、SUBPOPやMatodorといった「Touch & Go」と並ぶ名門レーベルも活発な活動を続けているのが現状です。

これはあくまで僕の主観なんですが、iTMSMyspace、Pitchforkなど、webを利用した新種の流通形態やメディアから最も大きな恩恵を受けた勢力はUSインディ・ロックだと思ってます。それら新しいメディアを上手く活用することにより、これまでインディ・シーンが持っていたローカルだけれど濃密なネットワークを世界規模にまで拡大、若い世代からの支持も受け、より多くのリスナーを獲得することに成功しました。

そうした新しいネットワークの確立を背景に、他の音楽ジャンル(特にHIPHOPやR&B)が停滞期に入ったこと、また『CQ』などTVドラマの劇中歌としてインディ・ロックを使うのがトレンドとなったことなども作用して、06年以降、新人・ベテラン問わず多くのインディ・バンドが躍進を遂げています。

かつてはそれほど注目されることのなかったベテランがチャート首位を飾ったり、デビューしたての新人がいきなりチャート上位に入ることも現在では珍しくありません。特にデジタル配信との相性は抜群で、DLチャート上位をインディ系のアーティストが独占することもしばしば(ビルボード16位まで上がったBon Iverなんてセールスの8割がDLだって話です)。

原因は経済的な理由とのことですから、そのような状況でもレーベルを運営するのに十分な収益を確保することができなかったということなのでしょう。音楽産業全体の収益が落ち込んでいるのは事実ですし、身軽さが身上のインディ・レーベルですから、その資本力はメジャー・レーベルと比べるまでもありません。また、前述したTV On The Radioや!!!など、レーベルの“新しい顔”となるはずだったバンドを繋ぎとめることができなかったことも遠因として考えられます。

メジャーの傘下に入ることも選択肢としてはあったかと思いますが、そこは“インディ・レーベルの矜持”が許さなかったのでしょう。

差し当たっては既に製作が決定している音源は予定通りリリースされるとのことですし、今回の措置は“閉鎖”ではなく“一時的な撤退”だということなので、また活動を再開する日が来るかもしれないのが救いでしょうか。

以前に比べ自由に音楽を楽しめる環境になったことは喜ぶべきことなのでしょうが、その足元でこういう事態が起こっていることを考えると複雑な心境になります。僕らが受けている恩恵に相応しいリターンを、その作り手であるアーティストやサポートを続けているレーベルに返すことができる最適な仕組みが構築されることを願うばかりです。

とりあえず今はがんばって稼いで、一枚でも多くのレコードを買うことに致しましょうかね。

Big Black - The Power of Independent Trucking

The Jesus Lizard - Boilermaker

Don Caballero - Fire Back About Your New Baby's Sex

!!! - Me and Giuliani Down by the School Yard (A True Story)